相続税は基本的に相続放棄の影響を受けない
相続放棄により法定相続人の数が変わることがある
民法では、「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」(939条)と規定されています。つまり、相続放棄をした人は、民法上は法定相続人ではないということになります。
相続放棄をすれば、相続権が次順位の人に移りますから、法定相続人の数が変わることがあります。また、相続税の計算の際には、法定相続人の数により非課税枠が変わる場面があります。民法上の法定相続人の数を基準に相続税を計算するのであれば、相続放棄により相続税額が変わってくることになります。
相続放棄で法定相続人の数が増えることもある
たとえば、被相続人に妻と子1人がいる場合、法定相続人は妻と第1順位の子の計2人になります。このケースで子が相続放棄した場合、父母が両方とも生きていれば第2順位の相続人となり、妻、父、母の計3人が法定相続人になります。もし父母とも亡くなっており、第3順位である兄弟姉妹が4人いれば、法定相続人を5人にまで増やすことも可能です。
相続税では相続放棄はなかったものとして扱う
相続税の計算においては、法定相続人が増えると、非課税枠が大きくなります。こうしたことから、相続税法では、相続放棄による課税逃れを防止するために、相続税においては相続放棄がなかったものとして法定相続人の数を数える扱いになっています。
上述の例では、相続放棄する前の妻と子の2人を法定相続人として数えることになります。相続放棄があっても、法定相続人の数は変わらないということです。
相続放棄は基礎控除額には影響を与えない
相続税の基礎控除額とは
相続税を計算するときには、相続財産の額から基礎控除額を差し引くことができます。相続税の基礎控除額は、次の計算式で算出します。
基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
相続放棄した人がいても基礎控除額はそのまま
相続税の計算では、相続放棄はなかったものとして扱います。相続税の基礎控除額は法定相続人の数によって変わりますが、相続放棄によって基礎控除額が変わることはありません。相続放棄をした相続人がいても、それによって相続税の負担が軽くなることはないということです。
相続放棄しても生命保険金等の非課税枠は変わらない
生命保険金には非課税枠がある
相続人が取得した生命保険金は民法上の相続財産ではありませんが、相続税法上はみなし相続財産として、相続財産に含まれる扱いになっています。ただし、生命保険金は、次の計算式により計算した金額を限度として非課税になります。
生命保険金の非課税枠=500万円×法定相続人の数
死亡退職金にも非課税枠がある
被相続人が亡くなったときに、勤務先の会社から家族などに退職手当金(死亡退職金)が支払われることがあります。死亡退職金についても、生命保険金とは別に、生命保険金と同様の非課税枠が設けられています。
死亡退職金の非課税枠=500万円×法定相続人の数
生命保険金や死亡退職金の非課税枠は相続放棄の影響を受けない
生命保険金や死亡退職金の非課税枠は法定相続人の数によって変わりますが、相続税の計算においては、相続放棄をした人がいても法定相続人の数は最初の状態のままです。つまり、相続放棄によって生命保険金や死亡退職金の非課税枠が増えることはないということです。
相続放棄した場合の相続税の支払い義務
相続放棄した人には原則として相続税がかからない
相続税の計算では、まず相続税の総額を算出し、それを実際の相続額に応じて相続人に割り振る形で納税額を出します。相続放棄した人は、財産を相続していないはずですから、通常は相続税の支払い義務はありません。
相続放棄した人に相続税がかかるケースもある
生命保険金というのは、民法上の相続財産ではありません。そのため、相続放棄をしても、生命保険金を受け取ることは可能になっています。ただし、生命保険金は相続税法ではみなし相続財産となりますから、生命保険金を受け取れば相続放棄した人でも相続税の課税対象になります。
また、被相続人から遺言により財産を遺贈された場合には、たとえ相続放棄をしていても、財産を受け取ることができます。遺贈を受けた財産は相続税の課税対象となりますから、相続放棄していても、遺贈を受けることにより、相続税がかかることがあります。