相続放棄しても、遺族年金は受け取れる
相続放棄していたとしても、遺族年金は受け取ることができます。遺族年金とは、公的年金に加入していた人が亡くなった場合、その遺族に対して支払われる年金を指す呼称です。加入していた年金制度別に、2種類の遺族年金があります。
1.国民年金に加入:「遺族基礎年金」という遺族年金
2.厚生年金に加入:「遺族厚生年金」という遺族年金
遺族年金の趣旨は、亡くなった人と生計を共にしていた遺族への生活保障です。つまり、遺族年金は相続や相続放棄とは関係ないものと見なされています。遺族年金を受け取ることのできる遺族の条件は、国民年金法第37条「支給条件」で次のように規定されています。
国民年金法第37条
遺族基礎年金は、被保険者又は被保険者であった者が、次の各号のいずれかに該当する場合に、その者の妻又は子に支給する。(以下略)
1.被保険者が、死亡したとき。
2.被保険者であった者であって、日本国内に住所を有し、かつ、60歳以上65歳未満であるものが、死亡したとき。
3.老齢基礎年金の受給権者が、死亡したとき。
遺族年金の受給権は、亡くなった方の妻または子に限定されています。遺族年金の受給をすでに開始していても、相続放棄の申し立てが可能です。
相続放棄しても、遺族厚生年金を受け取れる
もうひとつの遺族年金・遺族厚生年金についても同様で、相続放棄をしても受け取ることができます。遺族厚生年金を受け取ることのできる遺族の条件は、厚生年金保険法第59条で次のように規定されています。
厚生年金保険法第59条
遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者又は被保険者であった者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母であって、被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時(中略)その者によって生計を維持したものとする。
遺族厚生年金は、孫や祖父母など、遺族基礎年金よりも受給者の範囲が広くなっています。遺族厚生年金の受給権を持つ方が相続放棄をしても、遺族年金を受け取ることができます。
相続放棄しても、未支給年金を受け取れる
遺族年金と類似する年金に、未支給年金というものがあります。未支給年金とは、受け取れるはずであった年金が支給される前に亡くなった方がいる場合、その遺族に対して支払われる年金のことです。
国民年金法第19条
年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付で、まだその者に支給しなかったものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。
未支給年金も相続財産には含まれないため、遺族年金と同じく相続放棄をしても受け取ることができます。
相続放棄しても、死亡一時金を受け取れる
相続放棄した遺族は遺族年金の受給要件を満たさない場合でも、死亡一時金を受け取ることができます。被相続人が国民年金に3年以上加入していた・被相続人が年金を受給していなかった・相続人が遺族年金の受給ができないなどの3つの条件を満たしている場合に受け取ることができます。
国民年金法第52条の3
死亡一時金を受けることができる遺族は、死亡した者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものとする。
死亡一時金も相続放棄とは関係ないため、相続放棄した相続人が受け取ることが可能です。
相続放棄しても、死亡退職金を受け取れる場合がある
遺族年金だけでなく、被相続人の死亡退職金も問題になることがあります。会社ごとに定められている死亡退職金も、場合によっては相続放棄した遺族が受け取ることができます。
多くの会社では「死亡退職金については、遺族へ支給する」と定めており、この場合は相続放棄した相続人が受け取り可能になります。
万が一「死亡退職金については、労働者本人の資産とする」ような規則があるなら、死亡退職金は被相続人の財産となるため相続放棄した相続人は受け取ることができません。
これらをまとめると次のようになります。
相続放棄した相続人も、遺族年金は受け取ることができます。また遺族年金は、遺族の固有の権利に基づき受給するもので相続財産には含まれないため、相続放棄が遺族年金の受け取りに影響することはありません。現時点で遺族年金を受給開始していても、相続放棄の申し立ては可能です。
相続放棄するかどうかは、慎重に検討しましょう。