相続財産の一部のみの相続放棄はできない
相続放棄は、プラスになる財産のみを獲得してマイナスの財産だけを相続放棄するということができません。つまり空き家の相続放棄をする場合、空き家だけでなくすべての相続財産を相続放棄する必要があるのです。
すべての相続財産とは、土地や建物などの不動産だけではなく、現金や預金や株式などプラスの財産も含まれます。また、骨とう品や貴金属、美術品など、資産価値のある財産はすべて相続放棄するという意味になります。
空き家のことだけでなく、相続するすべての財産を相続放棄して本当に良いのかどうか?を、今一度よく考えてみることも大切です。
相続放棄後にも空き家の管理責任は残る
空き家を含む相続財産全般でマイナス財産が多く、相続放棄を検討している場合でも、民法940条の法令に注意する必要があります。その条文は、次の通りです。
民法第940条
相続放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
この条文の趣旨は、相続財産の管理責任は相続放棄をしたと同時に無くなるものではないというものです。もちろんこの条文通り、次の相続人へ財産を引渡すことさえできれば、相続放棄した空き家に関しても完全に責任を免れることになります。
しかし、ほとんどの場合それは難しいことと言えます。管理責任の負担が重くのしかかるような空き家を含めた相続財産を、素直に受け入れてくれるような相続人はそうそういないでしょう。
つまり空き家を含めた相続財産すべてを相続放棄するとしても、次の相続人が決まるまでは、相続放棄後も空き家の管理責任が自分について回ることになるのです。
資産価値のない古い空き家は早めの対処を
空き家の相続放棄を検討するということは、資産価値がなく、売却や貸借が困難な物件であるためでしょう。賃貸として貸し出すにも大幅な修繕が必要であるような古い空き家の場合は、特にできるだけ早めに対処する必要があります。
古く経年劣化が著しい空き家は、建物の一部が崩れたり、風雨や台風でガラスや瓦が飛んだりして、周囲の家を破損させてしまうなどの危険性も高いものとなります。
相続が始まった時点で、相続人全員に空き家を管理する責任が発生しています。もし相続予定の空き家によって他の人に損害を与えてしまった場合、相続人全員に損害賠償責任が生じてしまいます。
空き家は放置すればするほど、大きなリスクを抱えます。売却もできず、賃貸も無理と分かったなら、取り壊してしまうか公営の空き家管理センターなどへ管理を依頼するなどして、できるだけ早めに対処するようにしましょう。
取り壊し資金の都合や、空き家の所在地域周辺に空き家管理センターなどが存在しない場合には、裁判所へ相続財産管理人の選任申立てを行う方法もあります。相続財産管理人を選任し、相続財産を引き継がせることで、空き家の管理義務は免れることができます。
ただしこの場合、選任申立て費用として数十万~100万円程度の予納金を支払う必要があることを覚えておきましょう。
空き家の相続放棄を決めたなら、速やかに手続きを
相続を承認するか相続放棄するかは、原則として相続開始から3カ月以内に決定しなければなりません。相続放棄を決意したなら、被相続人の住所地の家庭裁判所へ速やかに「相続放棄申述書」を提出します。なお、一度相続放棄をしたなら、取り消すことはできません。
空き家を相続放棄したいと思っても、空き家のみの相続放棄は不可であり、相続財産すべてを放棄することになります。預金や貴金属など、資産価値のあるすべての財産を手放してでも空き家を相続放棄したいのかを、慎重に検討してください。
また相続放棄した場合でも、次の相続人が決まっていないと、空き家の管理責任は続きますので覚えておきましょう。