相続財産の管理責任は、相続人にある
基本的に、相続財産の管理責任は相続人にあります。遺産分割協議が済んでいるなら、その財産を相続することになった相続人が管理責任を負います。遺産分割協議がまだでも、ひとまずは相続人全員が管理責任を負うことになります。
特に管理が必要な相続財産は、不動産や土地、自動車や山林でしょう。
不動産は、著しく老朽化すれば建物の一部が破損したり、最悪の場合は倒壊したりする可能性があります。近所の家屋に被害を与えたり、近くを通りがかった人を傷つけたりすれば、相続人は過失責任を問われることになります。
土地も、不法投棄や不法占拠などをされている場合は、相続人が解決のために行動しなければなりません。もちろん、周囲の人や物に被害を与えた場合の責任は相続人にかかってきます。
自動車は、相続人が日常的に使用する場合は比較的管理しやすいかもしれません。しかし、屋外に停めたまま放置してしまうと、いたずらによって破壊されたり放火などの被害にあったりする可能性があります。
山林なども、管理不行き届きによって不法投棄や放火が起き、他の人の財産や命を脅かした場合は、相続人が責任を問われます。
このように不測の事態を招かないためにも、相続財産の管理、とりわけ他の人の所有物や命に関係する相続財産に関しては、どんな場合でもしっかりと管理する必要があります。
相続放棄しても、相続財産の管理責任は免れられない
被相続人が遺した財産の多くが巨額の債務であった場合には、相続権を放棄して相続人でなくなるという決定、「相続放棄」をすることがあります。
相続放棄すれば相続人ではなくなるのだから、相続財産の管理からも解放されるはず、と考える人が多くいますが、これは間違いです。民法では相続放棄した人に対し、次のように管理責任を定めています。
民法第940条第1項「相続の放棄をした者による管理」
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
相続放棄しても、次に相続人となる人が現れて相続財産の管理をしてくれるようになるまでは、自分の財産を扱うかのように注意深く相続財産を管理しなければならないということになります。
ですから、相続放棄によって被相続人の債務は免れたとしても、相続財産の管理責任までは免れられないことになります。
ここで問題になるのが、最後に相続放棄することになる人です。先順位の相続人全員が相続放棄してしまい、相続人は自分で最後という場合、自分が相続放棄すると相続人が一人もいなくなることになります。
最後に相続放棄する人には、相続財産を管理してくれる人が見つかるまでずっと管理責任だけが残ることになります。このような場合は、次に説明する手続きを踏むことで解決を図ることができます。
相続人が一人もいない場合は「相続財産管理人」の選任が必要
被相続人に相続人となり得る者が一人もいない場合、または相続放棄などによって相続人が一人もいなくなってしまった場合は、家庭裁判所で「相続財産管理人」を選任してもらう必要があります。
申立ては、最後に相続放棄する人が行うこともできますし、被相続人の債権者や特別縁故者が行うことも可能です。被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ、申立て費用と必要書類を提出することで手続きできます。
無事、相続財産管理人が選任されれば、最後に相続放棄する人の管理責任はなくなります。相続財産管理人はボランティアではないため、選任の際には報酬が必要です。しかし管理責任を追求されるリスクを考えれば、費用をかけてでも相続財産管理人を選任するべきでしょう。
まとめ
相続財産は、相続人が管理する必要があります。相続放棄したとしても、その責任は変わりません。不動産や車などの相続財産を放置することは、相続人のリスクを増大させます。相続財産は長い間放置せずに、速やかに処分を決めましょう。