絶縁状態の家族も、遺産相続への参加が必須
遺産相続には、被相続人の相続人全員が参加する必要があります。相続人が欠けていれば遺産相続は始められないため、遺産相続の最初の段階で相続人をもれなく把握するために、被相続人の戸籍を調査するのです。
遺産相続が始まって、絶縁状態の家族が相続人になった時は、その人にも遺産相続が始まったことを知らせ、相続人として遺産相続に参加してもらわなければなりません。
事実上の絶縁、または絶縁状まで送って絶縁しているとしても、法的な血縁関係が切れたわけではないため、その人が遺産相続の相続人としての立場を失うことにはなりません。
遺産相続で遺言書がない場合は遺産分割協議で遺産の分け方を決めますが、相続人がひとりでも欠けた遺産分割協議は無効なため、絶縁状態の家族にも参加してもらわなければなりません。
つまり、被相続人が亡くなり、遺産を分割するまでは、被相続人が残した財産は、相続人が共有している状態です。
・遺産が不動産の場合
例えば3人の相続人がいて遺産に不動産がある場合には、遺産分割の協議が終わるまでは、その不動産を3人の相続人が「共有」している状態です。
ここでポイントになるのは、不動産を3人の相続人が共有するということであって、決して一人の相続人が、その不動産について3分の1の所有権があるということではありません。共有とは、「一つのものを複数の人が共同で所有している」という状態です。
共有している人を「共有者」と言います。民法では、共有者はそれぞれ単独で、共有物(この場合は「不動産」)の保存行為を行うことができます。保存行為とは、現状を維持する行為ですから、例えば家が傷んだ場合には、共有者は自分の意思で(他の共有者に相談することなく)、修繕をすることができます。また、共有物の利用・改良行為については、持ち分の過半数によって、決めることができます。つまり、3人の相続人うち、2人以上の相続人が賛同すれば、不動産を利用・改良行為ができるということです。
しかし、共有物の変更、例えば譲渡や売買については、全員の同意が必要です。つまり、遺産分割協議が終了するまでは、不動産は相続人全員の共有物ですから、たとえ相続人であっても、自分だけの判断で処分することはできないのです。
・遺産が預貯金の場合
これは、遺産が動産、例えば預貯金であっても同じです。被相続人の配偶者であっても、葬儀に必要だからと言って、被相続人の預金を引き出して使うことは許されません。あくまでも、遺産分割協議が終了するまでは、預貯金も相続人の「共有物」となるからです。
遺産分割協議書とは何か?
被相続人が亡くなった後は、被相続人名義の財産を相続人で分割して相続することになります。もし被相続人が「遺言書」を残していた場合には、基本的に「遺言書」に記載されている内容のとおりに、遺産を分割し、相続することになります。「遺言書」というものは、被相続人の最後の意志ですから、相続人はその意志を最大限尊重しようとするためです。
しかし、「遺言書」とは別の分割方法を相続人全員で話し合って決めても構いません。また、「遺言書」がなかった場合には、基本的に民法で定められた法定相続分で分割することになりますが、この場合でも、相続人全員で話し合って、別の分割方法を決めても構いません。
このように、相続人全員で遺産の分割方法について話し合うことを「遺産分割協議」と言います。そして、遺産の分割について、全員の同意が得られたら、「遺産分割協議書」を作成します。ここでは、どの財産をどのような割合で、誰が相続するかという具体的な内容を記載し、最後に相続人全員が署名・捺印します。捺印は個々の実印を押して、「印鑑証明書」を添付しなければなりません。
相続人のうち1人でも分割協議に不参加・分割方法に賛同しない場合は?
相続人のうち1人でも、分割協議に参加していない、あるいは分割方法に賛同しない場合は、成立しません。全員の同意が必須です。仮に、遺産分割の方法に関して、相続人全員の合意を得ることができなかった場合には、家庭裁判所の調停で話し合うことになります。但し、この調停も、あくまでも相続人同士での話し合いが基本です。つまり、相続人全員が納得しない限り、被相続人の財産は、誰も相続できないということになるのです。
調停で成立しない場合は審判、そして裁判となることも
調停でも話し合いが成立しない場合には、審判となり、それでも相続人が1人でも納得しない場合には、裁判となります。裁判まで進むと、費用と時間がかかることになります。
絶縁状態の家族が遺産分割協議に参加しようとしない場合
絶縁状態の家族の所在が分かっていても、コミュニケーションが取れない場合があります。遺産分割協議は直接対面しなくても、電話や郵送でのやり取りでも進められます。
口もききたくないのであれば、郵送やメールなどの方法のみで遺産分割について協議し、遺産分割協議成立後の署名押印の際だけは折り合いをつけてもらうなどのかたちで進めましょう。
絶縁状態の家族が郵送でのやり取りにすら応じてくれない場合は、費用は必要ですが弁護士などの第三者に間に入ってもらい、橋渡しをしてもらいましょう。
絶縁状態の家族の所在や生死が分からない場合
絶縁状態の家族とは長い間連絡を取っていないことが多いでしょう。その場合、知らない間に住所や連絡先が変わっていて、遺産相続に関する連絡が取れないという事態も発生します。
絶縁状態の家族の居所が分からない場合は、家庭裁判所へ「不在者財産管理人の選任申立て」を行うことになります。
この申立てができるのは、絶縁状態で連絡が取れない人の配偶者や遺産相続の共同相続人、被相続人の債権者や検察官などです。不在者財産管理人に選ばれるのは、絶縁状態の人と遺産相続における利害関係にない親族が一般的です。
不在者財産管理人が選任され、「権限外行為許可の申立て」も受理されれば、絶縁状態の家族がいなくても遺産相続を進めることが可能です。
絶縁状態の家族の所在が不明の期間が7年以上であれば、不在者財産管理人を立てる他に「失踪宣告」を申立てることも検討できます。
失踪宣告を受けた人は死亡したものと見なされるため、絶縁状態のその人は死亡したものとして、遺産相続を進めることが可能になります。
絶縁状態の家族に遺産相続させたくない!できる対策方法は?
「絶縁状態の家族には遺産相続で財産を渡したくない」と考えることもあるかもしれません。絶縁状態の家族との法的な血縁関係は断ち切れない以上、次の2つの方法のいずれかによって、遺産相続を阻止するしかないと考えられます。
1.遺言書で指示しておく
遺言書で「○○(絶縁状態の家族)には一切の遺産相続をさせない」などと記載しておくことでその通りにすることはできます。
ただし、絶縁状態の家族が被相続人の兄弟姉妹でない限り、遺産相続において相続人に認められた遺留分だけは渡さなければならないかもしれません。
2.相続廃除の申立てをしておく
遺産相続における相続廃除の申立てで、絶縁状態の家族の相続権をはく奪することもできます。この場合はその人の遺留分もなくなるので、一切相続させないということが可能になります。
廃除は、被相続人が生前に自分で家庭裁判所へ申立てておくか、遺言で指示することで実現できます。ただし、相続廃除の理由として認められる条件は厳しく、犯罪を犯して実刑判決を受けたなどの重大な非行がなければ、認められません。
親の意向通りに進学・就職しなかったので絶縁状態にある子どもや、親が認めない相手と駆け落ちしたので絶縁した子どもなどを廃除するのは、ほぼ不可能でしょう。
まとめ
絶縁状態の家族が相続人の場合、基本的にはその人と連絡を取り、遺産相続に参加してもらうことになります。お互いに悪い感情があって、冷静な話し合いができない場合には、弁護士などの第三者に助けを求めましょう。