財産の範囲内でのみ負債を支払う「限定承認」
遺産相続対象の財産は負債が多くの割合を占めてはいるものの、現金や不動産などプラスの財産も無いわけではないという場合には、限定承認という方法で負債を背負わないようにすることができます。
これは、遺産相続で得ることのできるプラスの財産の範囲内に限定して負債を弁済する、というものです。遺産相続での限定承認のメリットは、弁済できる範囲内に限るとしても、責任を持って負債を弁済することが可能という点があります。
限定承認は、遺産相続における相続人という立場を捨てることにはならないため、限定承認の手続きをした後にプラスの財産が見つかった場合には、それを相続する権利があります。
もちろん、負債の弁済後にもプラスの財産が残っているなら、それも遺産相続対象の財産になります。
遺産相続対象の財産の調査が十分ではなく財産の全容が分かっていない状態でも、限定承認を選択することで遺産相続の可能性は残しつつ、相続人が自分の財産を削って負債を背負うというリスクはゼロにしておくことができます。
限定承認には注意点もあります。遺産相続をする相続人が複数いる場合は、全員の合意がなければ手続きできないことです。
また、限定承認のための財産目録作成や清算手続きは非常に面倒で、専門家に依頼せず自分たちだけで行おうとするのは難しい可能性があります。
財産も負債もすべてを相続しない「相続放棄」
遺産相続対象の財産を調査した結果、マイナスの財産がプラスの財産を上回ることが明らかであれば、相続放棄という方法も検討できます。これは、遺産相続で得ることのできる財産や権利をすべて放棄するという決定です。
相続放棄をする人は遺産相続において最初から相続人ではなかった人ということになるため、負債の弁済だけでなく遺産相続に関連する権利すべてを失います。
遺産相続における相続放棄の最大のメリットは、遺産相続の相続人としての権利をすべて失う代わりに、どんなに莫大な負債があろうと一切弁済する必要がなくなるということです。
相続人ではなくなるので当然、遺産分割協議を始めとする遺産相続の諸手続きに関わる必要もなくなります。遺産相続の限定承認とは違い、相続放棄の決定は各相続人が個人の単位で自由に決定・手続きできます。
相続放棄について注意したい点は、原則として取り消すことができない決定であるということです。そのため、相続放棄後にプラスの財産が見つかったとしても、相続放棄を撤回することはできません。
相続放棄した人が被相続人の財産を処分したりした場合には、相続放棄が取り消されるケースもありますが、プラスの財産が見つかったために相続放棄が不都合になり故意に行ったと認められると、相続放棄の事実は変わらない可能性があります。
また、次順位の相続人がいる場合にはその人に遺産相続の相続権が移行することになります。もし負債が多いために相続放棄をしたなら、次に相続人となる人も同じように相続放棄をするべきでしょう。
相続放棄するなら次に相続人になる人へ事情を説明し、負債の事実も知っておいてもらいましょう。
負債の免除にはならない間違った「対策」に注意
遺産相続で負債を背負わないようにするための対策については、誤解も見られます。
よくある誤解の中には、「自分は財産はいらない。その代わり負債も払わない」という意思表示を遺産相続の遺産分割協議ですれば負債の弁済義務を免れられるというものがあります。
これでは、遺産相続の相続人の間で相続に関する意思表示をしたに過ぎず、相続人の立場を捨てたことにはならないため、負債の弁済に対する法的な義務は残ったままです。
まとめ
負債に関連して限定承認と相続放棄で悩む場合は、遺産相続の対象となる財産の調査をどれほど徹底して行ったか、負債はプラスの財産でまかなえる範囲かどうかなどを考慮して決定しましょう。
特に相続放棄は、相続人の立場を失うことの重大さをよく理解した上でじっくりと検討しましょう。