相続分と遺留分の割合は、法律で定められている
相続分とは、相続人が複数いる場合に各相続人が受け取る遺産の割合を定めたものです。相続分には、民法によって定められている「法定相続分」と、被相続人が遺言によって自由に指定できる「指定相続分」という2種類があります。
法定相続分は、法定相続人の順位により異なります。
法定相続人
被相続人の財産を受け継ぐ相続人になれる人は、民法で決められており、決められた相続人を「法定相続人」といいます。
法定相続人には、「配偶者相続人」と「血族相続人」の二種類があります。
配偶者相続人は、被相続人の配偶者のこと、つまり夫もしくは妻のことであり、常に相続人になります。
しかし、内縁の妻や夫など、いくら夫婦同然に生活していても、法律上の婚姻関係にない場合は相続人にはなれません。
血族相続人は、被相続人の子や孫、父母・祖父母、兄弟姉妹などの血族であり、第一順位~第三順位までの順位が設けられています。
第一順位は、被相続人の子・孫・ひ孫、第二順位は、被相続人の父母・祖父母、第三順位は被相続人の兄弟姉妹とその子になります。
血族相続人は、順位が上の相続人がいる場合は相続人にはなれません。
例えば、被相続人に子どもがいる場合、第二順位である親や、第三順位である兄弟姉妹は相続人にはなれないということです。
ただし、被相続人が遺言を残していて、その中で相続人を指定している場合は、遺言の内容が優先するため、遺言に従うことになります。
法定相続分
法定相続分は、民法第900条で次のように定められています。
民法第900条「法定相続分」
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
1.子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
2.配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は3分の1とする。
3.配偶者及び兄弟姉妹が数人あるときは、配偶者の相続分は4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
4.子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
指定相続分
指定相続分については、民法第902条第1項で次のように定められています。
民法第902条「遺言による相続分の指定」
1.被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
2.被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。
遺留分
遺留分とは、配偶者やその他指定された相続人が、最低限取得できる相続分を保証する制度です。
指定相続分は被相続人が遺言によって自由に用いるものであり、法定相続よりも優先されます。
そのため、指定の仕方によっては特定の相続人に著しく不利であったり、特定の相続人にとって圧倒的に有利であったりと、不公平な状態が生まれる可能性があります。
相続人によっては、民法による相続人の権利があるにもかかわらず、遺産をまったく受け取れないことにもなりかねません。
そのようなことにならないよう、法定相続人の権利を守るため、遺留分という制度があるのです。
遺留分侵害額請求
遺言によって、自分に割り当てられた相続分が遺留分より少なくなってしまう事象を「遺留分の侵害」と呼びます。
遺留分の侵害が起きた場合は、遺留分を侵している相手へ「遺留分侵害額請求」をすることで、遺留分の相続分を取り戻すことができます。
遺留分侵害額請求は、2018年の法改正までは「遺留分減殺請求」という名称であり、財産が不動産であった場合に遺留分請求をする際は、不動産を共有することになっていました。
不動産を共有すると、自分の共有持ち分は、他の共有者の許可なく売却可能であることなどから、トラブルに発展することが多いといわれています。
しかし、法改正により「遺留分侵害額請求」に名称が変わり、内容も、遺留分を侵害された人は、侵害額に相当する金銭を請求することが可能となり、不動産共有の問題が解消されました。
重要な変更点なので、覚えておくとよいでしょう。
遺留分の請求方法は、遺留分の侵害額を請求する旨を書面にし、内容証明郵便で送付します。相手に確かに送ったという証明が必要になる場合が多いため、普通郵便ではなく必ず内容証明郵便を使います。
また遺留分侵害額を請求権の期限は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈を知った時から1年間です。また、相続開始の時から10年という期限もあります。
なお、配偶者と兄弟姉妹の相続分の割合については、続く部分で分かりやすく解説します。
配偶者と兄弟姉妹の法定相続分
法定相続分は、相続の順位が高い人ほど多い割合になるように定められています。
前述したように、配偶者は常に相続人であり、兄弟姉妹は第三順位となります。
配偶者と兄弟姉妹で相続する場合の法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1とされています。兄弟姉妹が2人以上の場合は、4分の1を兄弟姉妹全員で均等に分けることとなります。兄弟姉妹が2人なら、1人当たり8分の1を相続分として持ちます。
配偶者と兄弟姉妹の法定相続分の割合には、このように大きく差が生じることになります。
ただし、これはあくまで法定相続分ですから、配偶者と兄弟姉妹の間で話がまとまらず、相続分に対する合意が得られないような場合に適用できるものです。
必ず法定相続分に従って遺産分割をしなければならないのではなく、合意があれば兄弟姉妹の相続分をもっと多くして、配偶者の相続分を少なくすることなども自由です。
配偶者と兄弟姉妹が相続するケース
では、一体どのような場合に配偶者と兄弟姉妹が相続人になるのでしょうか。
もし、夫婦に子どもがいない場合は、配偶者と、被相続人の兄弟姉妹が相続人になる可能性があります。
順を追ってみていきましょう。
子どもがいない場合でも、配偶者は当然相続人となります(配偶者相続人)。
そして血族相続人は、まず第一順位である子・孫・ひ孫がいないので、第三順位である兄弟姉妹が相続人になるには、第二順位である被相続人の父母、祖父母ともに亡くなっていることが条件となります。
つまり、子どもがいない夫婦で、被相続人の父母も祖父母も既に亡くなっており、被相続人に兄弟姉妹がいる場合、配偶者と兄弟姉妹が相続人となります。
ちなみに、兄弟姉妹も亡くなっている場合、その子どもである甥や姪が代襲相続し、相続人になります。
代襲相続とは、本来相続人となる者が亡くなっている場合に、相続人の子や孫が代わりに相続人となることをいいます。
配偶者と兄弟姉妹の遺留分
配偶者の遺留分は、相続財産の2分の1です。遺留分の権利が認められているのは、配偶者・第一順位の相続人・第二順位の相続人のみです。兄弟姉妹は第三順位の相続人であるため、遺留分はありません。
配偶者は最優先の相続人のため、法定相続分の割合も遺留分の割合も配偶者の割合は大きくなっています。兄弟姉妹は最も下位の相続人のため、相続分は少なく、兄弟姉妹の遺留分の権利は認められていません。
兄弟姉妹は、相続人になる可能性があっても、遺留分の権利は無い、この違いに注意しましょう。
遺留分は法律で保証されている権利ですが、法定相続分の適用は義務ではありません。兄弟姉妹の事情に合わせたり、兄弟姉妹が合意しやすいように調整したりするなどして、柔軟に相続割合を決めることができるでしょう。
配偶者と兄弟姉妹が相続した場合に考えられるトラブルは
被相続人の配偶者と、被相続人の兄弟姉妹が相続人となり相続するケースは、他の相続、例えば配偶者と被相続人の両親が相続人となるケースよりも、両者の間で争いに発展する可能性が高いです。
配偶者の兄弟姉妹は、遠方に住んでおり、ほとんど会ったことがなく疎遠という方も多いのではないでしょうか。
たとえ近くに住んでいたとしても、しょっちゅう顔を合わせる間柄ではないでしょうし、もし良い関係を築くことができていたとしても、お金の問題が絡むと、残念ながら人間は変わってしまうものです。
疎遠であれば、残された配偶者は、ほとんど会ったこともない配偶者の兄弟姉妹と遺産分割の話し合いをしなければなりませんし、良い関係であったとしても、お互い少しでも多く財産が欲しい気持ちから、話し合いがうまくいかず、裁判に発展するケースも少なくないです。
また、法定相続人に関する間違った認識として、子どもがいない夫婦では、配偶者が全ての遺産を相続すると勘違いしていらっしゃる方もおり、何も対策をせずにいると、配偶者の兄弟姉妹が法定相続分の遺産を受け取ることで、配偶者が生活に困ってしまうこともあります。
トラブルを回避するためには
このようなトラブルを避けるためには、遺言書を作成しておき、配偶者に全財産を相続させる旨の内容を記しておくのがよいでしょう。
また、全財産を配偶者に相続させるのではなく、遺言書の内容で配偶者と兄弟姉妹間に余計な亀裂が入らないよう、ある程度の財産を兄弟姉妹にも残す旨を記しておき、できるだけトラブルを防ぐよう対策しておくのもよいかもしれません。
まとめ
夫婦に子どもがおらず、被相続人の父母・祖父母が亡くなっている場合は、被相続人の配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。
その場合の法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1で、兄弟姉妹が複数いる場合は、4分の1を均等に分けることになります。
また、遺留分は、配偶者が相続財産の2分の1で、兄弟姉妹には遺留分の権利は認められていないので注意が必要です。
配偶者と兄弟姉妹の相続は、トラブルになりやすいので、回避するためにも遺言書を作成しておくことをおすすめします。