生前贈与と基礎控除
ご存じの通り相続税は相続する財産に対して課税される税金なので、生前にあらかじめ贈与しておくことで相続税を節税することができます。
贈与については贈与税の対象になりますが、年間で110万円までの贈与については基礎控除となり課税されないため、基礎控除の範囲内で毎年少しずつ贈与をする「連年贈与」というやり方で節税対策をする方が多い印象です。
ただし、やり方を間違えるとせっかく贈与したのに相続税が課税された!
なんてことになってしまうため注意が必要です。
孫への贈与が否定された事例
Xさんは相続税対策で生前贈与を利用することを思いつき、毎年150万円を孫に生前贈与していました。
本来110万円以下であれば基礎控除の範囲内なので贈与税が非課税なのですが、Xさんはあえて基礎控除を少し超える金額を贈与することで毎年贈与税申告を行っていたのです。
贈与税申告が贈与の証拠になると考えたが
Xさんは孫がまだ未成年だったこともあり、自身の相続発生後に孫への贈与が否定されることを警戒していました。そこで、あえて贈与税の基礎控除額を少し上回る生前贈与をすることで贈与税申告をして、それを孫への贈与の「証拠」にしようと考えていたのです。
実際、Xさんのようにあえて贈与税が発生する贈与をする人がいるのですが、残念ながらそれだけでは十分な証拠にならないんです!その理由はすぐに明らかになります。
税務調査で調査員から聞かれたこととは
その後Xさんが死亡して相続が発生し、相続税申告も終わって1年あまりが経過しました。そしてある日税務署から税務調査について連絡があり、調査をされることになったのです。
税務調査当日問題になったのが、Xさんが生前贈与で孫に贈与した1,500万円の預金口座について。
Xさんは毎年150万円の贈与を10年間続けたため、合計で1,500万円もの生前贈与をしていたのです。孫名義の口座を見つけた調査員は、相続人であるXの息子に次のように尋ねました。
「お孫さんの通帳や印鑑は誰が保管していたのですか?」
そしてXの息子さんは正直に次のように答えました。
「Xの孫はまだ子供なので、通帳や印鑑はXがそのまま保管していました」
つまり、生前贈与用に孫名義の銀行口座を開設して、その後は生前贈与で振り込むために通帳や印鑑はXが管理していたのです。
続けて調査員は相続人に尋ねました。
「ではお孫さんはお金を引き出して使ったことはありますか?」
「まだ子供ですから預金を使ったことはありません」
それを聞いた調査員は次のようにいいました。
「そうなるとお孫さん名義の銀行口座でも、実質的にはXさんの名義預金になるので生前贈与は成立していません。相続税の課税対象となるので、1,500万円を相続財産に加えて修正申告をしてください」
結果的に生前贈与は否定され、おまけに過少申告加算税や延滞税まで追加されてかなりの税額を追加納税させられてしまったのです。
名義預金と指摘されない5つのポイント
上記事例のように高額の生前贈与を否定されると、追加納税させられる税額があまりにも大きいため深刻な状況を招きます。
実質的に被相続人の名義預金だと指摘をされないためには、以下の5つのポイントについて理解してカバーしておくことが大切です。
ポイント1:通帳や印鑑の管理
贈与をしたからには、通帳や印鑑は贈与を受けた本人が管理していなければなりません。
本人が自分の意思でいつでも引き出せる状態でないと、贈与を否定される可能性があるため注意が必要です。
また、親が通帳や印鑑を管理していて本人が預金の存在を知らないケースについても注意した方がよいでしょう。
ポイント2:預金を使用する
贈与を受けた預金を本人が実際に引き出して使用した履歴を残しておくと有効です。
ポイント3:本人の住所地の近くの支店で口座を開設する
贈与者と離れて暮らしている場合、贈与者の住所地の近くの支店で口座を開設すると名義預金との指摘を受けやすいです。
ポイント4:贈与税は本人が納税する
贈与税が発生する場合については、必ず本人が納税資金を支出して納税する必要があります。贈与者自らが負担してしまうと贈与は認められない可能性があります。
ポイント5:贈与契約書を作成する
生前贈与の最も基本となる部分です。たとえ家族間でも贈与契約書は必ず作成して保管しておきましょう。
まとめ
今回の事例では贈与税申告をしていたことが贈与の証拠になると考えていたようですが、税務署の見解としては贈与税申告をしていたからといって、必ずしも贈与が有効だと認められるわけではないそうです。
そのため、生前贈与をする際には今回ご紹介したポイントについて必ず押さえておくことをおすすめします。