遺言書を書きたくない!
これは実際にあった相続の事例です。
70歳を超えた祖父はアパート経営をしていて、1棟10戸を所有していましたが、ある日突然祖母が突然死してしまい、そこから徐々に憔悴していきました。
祖父は秘密主義だったため、アパート以外の資産については家族に一切秘密にしていて家族はとても不安でした。知り合いの税理士に相談したところ、相続対策をした方がいいということを知り、祖父に資産の詳細を尋ねましたが拒んでしまいました。
遺言書を書くことを税理士にすすめられましたが、祖父は縁起でもないと断固拒否してしまい、なんの対策もできないまま時間が過ぎてしまいました。
そんな中、家族の会話の中で祖父が自分のアパート経営を娘の夫に次いでほしいと言い出しました。
祖父には2人の娘AとBがおり、Aがこの事例を教えてくれた方の母親にあたります。
祖父はAとAの配偶者Bと同居していて、身の回りの世話をすべてAがやっていたこともあり、遺産はすべてAとBに譲りたいと思っていたのです。
祖父は昔気質で、男性にアパート業を継いでほしいという思いから、実子であるAではなく、義理の息子であるBに次いでほしいと思っていました。AとBは夫婦仲が非常に良かったことから、祖父と同意見となり、事前に娘Bも交えて話し合ったところ、介護を全部やってくれているからということで、快く了承してくれたのです。
対策としてはこれでも十分のように見えますが、実はBは実子ではないので厳密にいうと相続人にはなれません。また、遺言書を書きたくないと言っているので、遺贈することもできません。
養子縁組という対処法
そこで税理士に相談したところ、義理の息子に対して遺言書を書かずに遺産を渡すことができる方法があることを知りました。
それは「養子縁組」です。
祖父が義理の息子Bと養子縁組をすることで、実子であるAやBと同じ相続分を持つことになるので、万が一相続が発生しても問題なく相続人になれます。
サザエさんに例えると、波平が家を継がせるためにマスオと養子縁組をする感じです。
これによって、遺言書がなくてもBが相続人になれるようにしました。
円満相続に至ったポイント
養子縁組をした数か月後、祖父は亡くなり無事遺産分割が完了しました。
この相続が円満に終わったポイントは2つあると思っています。
ポイント1:養子縁組
法定相続人ではない人に遺産を取得させる方法として、一般的には遺言書がおすすめされていますが、今回の事例のように遺言書を書きたくないという人は少なくないと思います。
そんな場合でも、本人の意思が固い場合は養子縁組をすることで相続人としての地位を与えることができるので、遺言書がなくても遺産分割対策になるのです。
ちなみに、普通養子縁組は役所で書類を提出するだけなので、そんなに難しい手続きではありません。
ポイント2:生前の話し合い
遺産相続のトラブルを防ぐ最大の対策は、本人が生きているうちに話し合うことです。
特に、相続発生前において目立った対立関係が生じていないご家庭の場合は、生前に本人を交えて意思や希望を伝えて家族を納得させておくことで、相続発生後にスムーズに遺産分割ができます。
いわば、生前の話し合いによって相続人予定者全員について心の準備ができるのです。
例えば、相続発生後いきなりすべての遺産を婿養子に相続させるって言いだしたら、ほかの子供は納得しにくいですよね。
本人の生前に話し合うことができれば、本人の意思や気持ちを直接聞くことができるので、多少偏りのある割合だとしても納得しやすいのです。
遺言書なら付言
このように、被相続人の気持ちを相続人予定者に伝えることはとても大切ですが、どうしても面と向かって言いにくいという場合は、遺言書に書くことも有効です。
原則として、遺言書については直接関係ない事項を記載しても、法的効力に影響はありませんが、あえて本人の気持ちを書くことで、遺産分割がスムーズに進むことがあります。
これが付言です。
遺言書を書く際にはぜひ付言事項も一緒に記載することをおすすめします。
まとめ
今回は遺言書なしで円満相続が達成できた事例をご紹介しました。
実は遺言書がなくてもうまくいくケースはたくさんあります。ポイントは、生前から話し合いを進めていくことです。家族が触れにくい話題であるからこそ、相続される側から率先して相続の話題を切り出すことが重要になります。