父親の相続。遺産は実家の土地・建物だけ
兄弟のうち一人が親と同居し、他は実家を離れているケースは多いのではないでしょうか?
今回ご紹介する兄弟は2人兄弟。兄である長男が両親と同居していました。
長男は独身で、婚姻歴はありません。7年前に母が他界してからは、父と長男の2人暮らし。
一方、次男は結婚して家を出ており、少し離れた市で妻、子供と一緒に暮らしています。
先日父が他界し、相続が発生しました。母は既に亡くなっていますから、法定相続人は長男と次男の2人。
父が残した財産は実家の土地・建物のみです。父は遺言を残してはいなかったため、実家をどのようにするかは、相続人である兄弟で話し合わなければなりません。
実家を兄弟2人の共有名義にしてもいい?
相続財産が不動産だけのケースでは、遺産分割に悩んでしまいます。
不動産は物理的に2つに分けることができません。兄弟2人の共有名義にしておくこともできますが、不動産が共有名義だといろいろ問題が生じます。
たとえば、不動産を売却するときには、共有者全員の同意が必要です。
今は仲が良い兄弟でも、将来的に意見が分かれて、売る、売らないでもめるかもしれません。また、共有者の一人が亡くなると、その相続人に共有持分が引き継がれます。
次男が先に亡くなった場合、次男の妻や子供が不動産の持分を相続して、権利が複雑化することも考えられます。
兄が実家に住むなら代償分割という方法も
相続財産が不動産だけの場合、相続人の共有にするのはおすすめではありません。
共有にする代わりに、相続人の1人が不動産をもらって、その相続人から他の相続人に代償金を支払う「代償分割」という方法があります。
この事案では、長男が実家をもらって、次男に代償金を支払う代償分割も可能です。
しかし、長男は「この家はもう古いし、自分は独り身。ここに住んで弟にお金を払うよりも、新しいマンションを購入して住みたい。」と考えました。
換価分割なら不動産も公平に分けられる
「実家は売却して、売却代金を2人で分けよう」ということで、兄弟の意見は一致。
建物は古いですが、土地の値段は上がってきています。2人とも現金を受け取った方が好都合と考えたため、「売却代金から経費を差し引いた額を2分の1ずつ取得する」という内容の遺産分割協議書を作成しました。
ちなみに、相続財産を売却して売却代金を分ける遺産分割の方法は、「換価分割」と呼ばれます。
分けにくい財産も現金化すればきっちり分けられますから、換価分割なら公平な遺産分割ができます。
実家を売り出したところ、すぐに買い手が付き、売買が成立。仲介手数料等の経費を差し引いた6000万円を、長男も次男も公平に3000万円ずつ受け取りました。
換価分割すれば譲渡所得税がかかる
ところで、不動産を売却して売却益が出ると、税金が発生します。
相続した財産を換価分割する場合、売却の時点では相続人名義ですから、相続人に税金がかかります。
売却時の税金について何となく聞いたことがあった次男は、売却後、税理士である友人に相談しました。
友人の話によると、不動産の取得費(購入時の費用)と譲渡費用(売却時の経費)を差し引いた譲渡所得(譲渡益)に対し、20%の譲渡所得税がかかるとのこと。
実家の譲渡所得を計算してみると4000万円になるので、一人当たりの譲渡所得は2000万円です。
次男は2000万円の20%の400万円の税金を払わないといけないことを知りました。
遺産分割で手に入った3000万円のうち400万円が税金ということは、実質的な手取りは2600万円になります。
兄弟で売却後の手取り額に差が…
「なるほど。思いのほか税金がかかるのだな…」と思った次男ですが、税理士の友人から教えてもらったもう一つの事実に、さらに衝撃を受けました。
今回の実家の売却では、兄である長男には税金がかからないという事実です。
譲渡所得税には、居住用財産を譲渡した場合の特例があります。
自宅の売却ではこの特例が利用できるので、譲渡所得から3000万円が控除されます。
長男にとって実家は自宅ですから、譲渡所得の2000万円はゼロになり、税金もなし。
結果、長男は3000万円を丸々受け取れます。
相続した実家の換価分割では税金に注意
今回の事案で、次男は自分だけ税金がかかると知って、少し損した気になりました。親と同居していた長男の方が優遇されてもいいのかもしれませんが、自分だって家族がいて大変なのに…と。
このように、換価分割では一部の相続人にだけ税金がかかってしまい、手取り額に差が出てしまうことがあります。
公平な遺産分割をしたいなら、税金まで考慮して分け方を決めた方がよいでしょう。