生前贈与を受けると相続手続きで相続分を減らされることがある
法定相続分だと不公平が生じる場合がある
複数の相続人がいる場合、遺言がなければ遺産は法定相続分どおりに分けるのが原則になります。しかし、相続人の中に被相続人から生前贈与を受けている人がいれば、法定相続分どおりに分けるとその人だけが財産を多く引き継いでしまうことになり、不公平感があります。
そこで、相続手続きの際には、被相続人から特別の利益を受けている相続人がいる場合、その利益分を「特別受益」として相続財産に加算し、それぞれの相続人の取り分を調整することができるようになっています。
特別受益に該当する生前贈与とは?
民法では、特別受益として認められるのは、「遺贈」及び「婚姻・養子縁組または生計の資本」とされています。つまり、生前贈与で婚姻・養子縁組または生計の資本に充てる財産を贈与された場合には、相続手続きの際に特別受益として相続財産に加算されることになります。
婚姻・養子縁組または生計の資本とは?
一般には、結婚や養子縁組の際の持参金や支度金、事業開始の際の資金などが含まれますが、被相続人の資産状況や家庭の事情にもよるため一概にはいえません。たとえば、挙式費用として300万円出してもらっていても、相続財産が1億円あるというような場合には、特別受益とはいいにくいでしょう。
相続税の計算で生前贈与分が加算されることがある
相続税の生前贈与加算とは?
相続の際にしなければならない重要な手続きに、相続税の申告・納税があります。生前贈与は、相続税の手続きにも影響を与えます。相続税の課税の基準になるのは相続開始時に被相続人が所有していた財産ですが、例外的に生前贈与した財産が加算されることがあります。生前に相続手続きを考えている際には注意が必要です。
相続財産に加算される生前贈与
生前贈与加算の対象となるのは、被相続人が相続開始前3年以内に行った贈与になります。なお、生前贈与加算は、贈与を受けた人が、相続の際に本来の相続財産やみなし相続財産(生命保険金や死亡退職金など)を被相続人から取得している場合にのみ行われます。相続により財産を取得していない人へ生前贈与された分については、生前贈与加算の対象になりません。
相続時精算課税制度による贈与財産も加算される
相続時精算課税制度とは、贈与時に2500万円までの非課税贈与を可能としたうえで、相続時に贈与財産と相続財産を合計した額をもとに相続税を計算して精算するというものです。相続時精算課税制度を選択すれば、それ以降暦年課税は選択できなくなりますが、税金の支払いを相続時まで先送りにすることができます。
被相続人が相続時精算課税制度を利用して生前贈与した財産は、相続時に手続き上のルールに従い、相続財産に加算されます。相続手続き開始前3年以内の生前贈与加算と異なり、相続時精算課税制度による贈与財産は、贈与を受けた人が本来の相続財産を取得しなかった場合でも、相続財産に加算される点に注意が必要です。
生前贈与は相続手続きの遺留分の算定にも影響を与える
生前の相続手続きで考慮すべき「遺留分」とは?
相続の際のルールは民法に規定されていますが、遺言によって民法の相続ルールとは違う相続の方法を指定することも可能になっています。しかし、民法上の法定相続人のうち兄弟姉妹以外の人には、遺留分という最低限の取り分が設けられており、遺言によっても遺留分を奪うことはできません。
生前贈与も含めて相続手続きの遺留分を算定することがある
遺留分が問題になるのは、相続時になります。そこで、遺留分対策として、相続手続きが行われる前の生前に贈与を行うことを考える人もいると思います。
しかし、遺留分算定の基礎財産には、相続財産だけでなく、相続手続き開始前1年以内の生前贈与も含まれることになっています。また、それ以前の生前贈与でも、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知りながら行った場合には、遺留分算定の基礎財産に含まれる扱いになっています。
生前贈与の際にも相続手続きの遺留分を考慮しておいた方がいい
遺留分を侵害された相続人が自らの遺留分を取り戻すためには、遺留分減殺請求をする必要があります。相続人が遺留分減殺請求をすると、生前贈与により財産を取得した人は、その相続人に財産を返さなければならないことになってしまいます。生前贈与を行う際にも、相続人の相続手続きの遺留分を侵害することにならないか留意しておいた方がよいでしょう。