相続を部分放棄することは基本的にできない
相続の3つの方法
相続では、不動産や預貯金などのプラスの財産のほか、借金などのマイナスの財産も承継するのが原則です。もしプラスの相続財産よりマイナスの相続財産の方が多ければ、相続人がマイナス分を負担しなければならないことになります。
相続により借金の負担を背負わなくてすむよう、相続人には次の3つの選択肢が用意されています。
単純承認
プラスの財産だけでなく、マイナスの財産を含めた一切の財産を相続する方法です。相続では単純承認が原則となり、何も手続きしなければ単純承認したことになります。
限定承認
プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を承継する方法です。相続財産がトータルでマイナスになる場合でも、相続人がマイナス分を支払う義務はありません。
相続放棄
プラスの財産もマイナスの財産も一切承継しない方法です。相続放棄をすれば、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます。
相続放棄では部分放棄はできない
被相続人が財産と借金の両方を残している場合、財産は相続したいけれど借金は相続したくないのが普通だと思います。単純承認をすれば財産は相続できますが、借金も相続しなければなりません。一方、相続放棄をすれば、借金は相続せずに済みますが、財産も相続できなくなってしまいます。
相続放棄をするときに、部分的に放棄できないかと考える人もいるかもしれませんが、相続の部分放棄は認められていません。相続放棄すれば、すべての相続財産を放棄せざるを得ないことになります。
相続の限定承認は部分放棄とは違う
財産を相続しながら借金の負担も免れたい場合には、限定承認するという選択があります。限定承認は、相続の部分放棄とは違いますが、似た制度ということができます。
限定承認では、相続財産の中から被相続人の債務を支払うことになります。相続財産で返済しきれない分については、相続人が返済する必要はありません。債務を返済しても相続財産が残る場合には、残った相続財産を遺産分割により相続人で分けることになります。
相続を部分放棄したいなら限定承認を検討
限定承認なら相続人が自宅を取得することも可能
相続の部分放棄を希望する場合というのは、借金は相続したくないけれど、自宅などのどうしても相続したい財産がある場合が多いと思います。たとえば、被相続人名義の自宅で被相続人と同居していた相続人は、相続放棄をすれば自宅を失ってしまうことになりますから、相続を部分放棄できないかと考えることがあるはずです。
このような場合、相続放棄をすれば自宅は相続できません。しかし、限定承認をすれば、相続人は自宅を取得できる可能性があります。限定承認では、相続人は優先的に相続財産を買い取ることができる「先買権」の行使が可能だからです。
先買権とは
限定承認の手続きでは、相続財産は原則として競売によって換価され、債務の返済に充てられます。相続財産の中に自宅がある場合にも、自宅は原則的に競売にかけられてしまうことになります。
先買権とは、相続財産が競売にかけられる前に、お金を払って優先的に財産を買い取ることができる権利で、限定承認をした相続人にのみ認められています。先買権を行使するときには、家庭裁判所に鑑定人の選任の申立てをし、相続財産の評価額を出してもらったうえで、評価額の全部または一部の価額を支払う必要があります。
相続の限定承認をする場合の注意点
相続人全員で手続きする必要がある
相続の限定承認は、相続放棄とは違い、各相続人が個別に手続きできるものではありません。限定承認するには、相続開始を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所で限定承認の申述の手続きを行う必要がありますが、この手続きは相続人全員が共同して行うものとされています。
相続人の中に相続放棄をした人がいる場合には、残りの相続人全員で限定承認の手続きができます。しかし、相続人の中に一人でも単純承認をする人がいれば、限定承認はできません。相続の部分放棄的な意味合いで限定承認をしたい人がいたとしても、相続人全員で意見が一致しなければ、限定承認を選ぶのは困難ということになります。
譲渡所得税の課税対象となる
限定承認をすると、税法上、相続開始時に被相続人から時価で相続財産が譲渡されたものとみなされ、譲渡益が発生していれば「みなし譲渡所得税」が課税されます。この場合、相続開始を知ったときから4か月以内に準確定申告をする必要があります。