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遺産分割協議で相続しないと明言しただけでは、相続放棄にならない?

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相続放棄と、遺産分割協議の違い

相続放棄は、法律に則った公的な制度です。相続放棄をすると、故人の遺産すべてに対する相続権を放棄することになり、法的にも相続人という立場ではなくなります。

相続放棄は、遺産分割協議で「遺産はいらない」という単なる意思表明をすることや、遺産分割協議書に「相続を放棄する」と一筆書くことで成立するものではありません。

遺産分割協議とは、相続人である身内の者が集まって、遺産の分配について話し合いを行うことを言います。遺産分割協議で決定した事柄は、遺産分割協議書という書面にまとめ、相続人全員が実印で署名捺印して完成します。

相続放棄と遺産分割協議の違いを簡単に言うと、相続をしないということが「公的に」認められているか、それとも「私的な」ものか、ということになります。

相続放棄した人は、相続人でないことが「公的に」認められます。ですから、故人の遺した負債を弁済する義務はなくなり、債権者からも請求されることはありません。

それに対し、遺産分割協議で意思表明しただけの人は、身内の中でのみ有効な「私的な」決定をしたに過ぎません。債権者から見れば、その人も相続人であることに変わりはなく、弁済を請求することが可能な相手となります。

そのため、債権者に対して遺産分割協議で相続は放棄してあるから弁済はしない、という主張はできません。

 

遺産分割協議後に、相続放棄はできる?

遺産分割協議を行った後に相続放棄をすることは、原則としてできません。遺産分割協議を行うということは、自分が相続人であるということを認めて遺産の分割に関わろうとしていることを意味します。

また遺産分割協議を行うことは、相続することを認めたという「単純承認」の事由にも該当します。相続に関する意思決定は原則として覆すことができないため、遺産分割協議後の相続放棄は大変困難でしょう。

しかし過去の裁判例の中では、遺産分割協議後の相続放棄を認めた判例もあります。

大阪高等裁判所平成10年2月9日決定の判例では、「3ヶ月以内に相続放棄をしなかったことが、相続人において、相続債務が存在しないか、あるいは相続放棄の手続きを取る必要をみない程度の少額にすぎないものと誤信した為であり、かつそのように信じるにつき相当な理由があるときは、相続債務のほぼ全容を認識したとき、または通常これを認識しうべきときから起算すべきものと解するのが相当である」としています。

分かりやすく言うと、故人の負債を正確に把握していない状態で行われた遺産分割協議は無効であって、相続人は単純承認したものとは見なされず、そのため負債を認識した時を起点として3カ月以内なら相続放棄を選択できる、という判決です。

しかし類似のケースでも、遺産分割協議は有効であり、相続放棄は認めないとした判例もあり、ケースに応じて判断が変わってくる可能性が考えられます。

 

相続放棄を確実に行うためには

前述の通り、口頭で相続放棄の意思を示すだけでは、相続放棄したことにはなりません。相続放棄を選択した当人が、しかるべき法的手続きを取らなければならないのです。

相続放棄をする場合は、家庭裁判所へ「相続放棄申述書」を提出し、受理されることが必要です。相続放棄申述書を提出するのは、相続が開始してから3カ月以内と定められています。3カ月を過ぎてしまうと、相続を認めたものと見なされます。

どうしても3カ月では決められないという場合は、家庭裁判所へ期間伸長の申し立てを行って下さい。さらに期間の猶予をもらうことができます。

相続放棄の手続きはできる限り早めに行いましょう。相続放棄を希望しているのは、負債を負いたくないからという場合も多いでしょう。故人の死亡に関する様々な手続きで忙しくしているうちに、うっかり3カ月の期限を超過してしまうリスクも高くなります。絶対に負債を負いたくないなら、自分自身で早めに相続放棄の手続きを完了することが重要です。

 

まとめ

遺産分割協議は、あくまで身内で行われる内輪の話し合いに過ぎません。正式な相続放棄をしたいなら、遺産分割協議には参加せず、家庭裁判所へ相続放棄の申述書を提出して、所定の法的手続きを踏む必要があります。

故人の死亡直後は想像以上に忙しくなります。相続放棄など期限の短い手続きは、早めに済ませるようにしましょう。