遺産分割協議の期限
遺産分割協議の必要性
相続人が複数いる場合、相続が発生した時点では、相続財産は相続人全員で共有している状態になります。遺産分割とは、相続人全員で共有している相続財産を各相続人の取り分を決めて分ける手続きです。
被相続人が遺言を残している場合には、遺産は遺言に従って分割されるため、通常遺産分割は必要ありません。一方、被相続人が遺言を残していない場合には、相続人全員で遺産の分け方について話し合う遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割協議自体に期限はない
遺産分割協議には、法律上の期限はありません。相続開始後数十年経ってから遺産分割協議を行うことも可能です。
しかし、遺産分割協議に期限がないとはいえ、相続開始後できるだけ早い時期にやっておくのが安心です。というのも、相続手続きの中には期限のあるものもあり、そうした手続きの期限中に遺産分割協議をしていないことが影響を与えることがあるからです。
遺産分割協議と限定承認・相続放棄の期限
相続には3つの選択肢がある
相続の際には、相続人は次の①~③のいずれかの相続方法を選ぶことができます。
単純承認
原則的な相続方法で、プラスの財産もマイナスの財産もすべて承継する方法です。何も手続きしなければ単純承認したことになります。相続開始後に相続財産を処分した場合なども、単純承認したものとみなされます。
限定承認
プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を承継する方法です。財産よりも借金の方が多い場合、不足分を返済する義務はありません。
相続放棄
プラスの財産もマイナスの財産も一切承継しない方法です。相続放棄すれば最初から相続人でなかったことになります。
限定承認と相続放棄には期限がある
相続の際に限定承認または相続放棄を選ぶ場合には、相続開始を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きする必要があります。この3ヶ月の期間(熟慮期間)を過ぎてしまえば、それ以降限定承認や相続放棄はできません。なお、一度限定承認や相続放棄の手続きをすれば、その後撤回できないようになっています。こちらの期限があるため、遺産分割協議を行う際には注意が必要です。
まずは相続財産調査が必要
限定承認や相続放棄をすべきかどうかを判断するためには、相続財産について正確に把握する必要があります。遺産分割協議に期限がないからと、相続財産調査を後回しにしていると、あっという間に熟慮期間が過ぎてしまいます。そうなると、被相続人が思いのほか多額の借金を残していたとしても、単純承認せざるを得なくなってしまいます。相続が開始したら、できるだけ早く相続財産調査をしてしまうのが安心です。
相続放棄の期限は延長も可能
どうしても3ヶ月以内に相続財産調査が終わらない場合には、熟慮期間の延長申請が可能です。何も手続きしないまま当初の熟慮期間が過ぎてしまえば、期間延長もできなくなってしまいます。相続財産調査をするときには、遺産分割協議だけでなく、限定承認・相続放棄の期限も意識しておきましょう。
遺産分割協議と相続税の期限
相続税の申告期限
相続財産の額が下記の基礎控除額を上回ると、相続税の申告義務が発生します。
基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
相続税の申告期限は、相続開始を知ったときから10ヶ月となっています。また、申告により納付すべきことが確定した相続税額についても、申告期限までに納付が必要です。
遺産分割未了でも相続税の申告・納付が必要
相続税は、最終的に各相続人が相続した財産の額によって納税額が決まります。遺産分割協議が終わっていない場合、各相続人の相続額が決まっていないわけですから、納税額の計算ができないことになります。
しかし、遺産分割協議がまだの場合でも、相続税の申告・納付は期限内に行わなければなりません。この場合には、各相続人が法定相続分で相続したものと仮定して、相続税額を計算し、納税することになります。そのため、遺産分割協議の際は相続税の期限についても注意が必要です。
未分割のままでは特例が使えない
遺産が未分割のまま相続税の申告を行う場合には、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使うことができません。そのため、本来の税額よりも多く納税しなければならないことになってしまいます。相続税の負担を軽くするためにも、遺産分割協議は申告期限までに終わらせておくのが理想です。
遺産分割協議は遅くても申告期限から3年以内に
未分割のまま申告を行った場合にも、申告期限から3年以内に遺産分割協議ができれば、修正申告や更正請求により、配偶者の税額軽減及び小規模宅地等の特例を受けることができます。遺産分割協議が申告期限後になってしまった場合にも、3年以内に完了できるようにしましょう。