そもそも時効って何?
時効とは法律上の考え方で、ある事実が長期間続いた場合、その状態が本来あるべきものでなくとも、これを正当な法律状態と認めることです。
よく刑事ドラマで犯人が時効ぎりぎりで捕まるというシーンがありますが、民法上の時効もそれと似たイメージです。
例えば、AさんがBさんから100万円を借りていたとします。お金を借りたからにはもちろん返さなければいけないのですが、Bさんが返済の請求を忘れていたとします。そのままAさんがお金を返さずに10年以上経過すると貸した100万円は事実上Aさんのものと考えられ、Bさんが本来持っていた貸金請求権がなくなってしまいます。
このケースは法律的視点で考えると、BさんはAさんに対して100万円分の債権(相手に何かをしてもらう権利)を持っていましたが、それを行使しなかったことで債権が消滅したと言い換えられます。
この事項という概念はお金や不動産のやり取りだけでなく、遺産相続のケースでも関係します。
遺産相続で時効が関連する3つのケース
遺産相続の場面では相続人には様々な権利が発生します。しかし、時効の考え方を応用するならば、いくら権利があっても権利を行使しない期間が一定を過ぎてしまえば、権利を使う意思がないものとして考えられるのです。
遺産相続は多額の財産が動くため、自分にはどういう権利があるのか、そしてどういったケースで時効が関連してくるのかしっかりと知っておかなければいけません。
遺産相続において時効が関連するのは大きく3つのケースです。
ケース1:相続放棄を行う場合
相続放棄とは要するに「遺産の受け取りを放棄すること」です。
遺産には預貯金や不動産、株券など自分の財産にとってプラスに働くものだけではなく、借金や慰謝料などマイナスに働くものも含まれています。
つまり、亡くなった父親に1000万円の借金があり、これを子供が相続した場合、その子供が1000万円の借金を返済しなければいけません。
このような場合ほとんどの人は借金を相続したいと思いませんよね。そんなときにするのが相続放棄です。
しかしこの相続放棄をする権利にも時効があり、相続人が相続があったことを知った日から3か月以内に相続放棄をしなければ、相続放棄の権利が時効によって失われてしまいます。
相続放棄をするためには家庭裁判所に相続放棄することを伝えて、必要書類を提出しなければいけませんので注意してください。
ケース2:遺留分減殺請求権を使うとき
遺産を相続した際、自分の取り分があまりにも少ないというケースがあります。そういった場合に自分の正当な相続分を請求する権利が遺留分減殺請求権(いりゅうぶんげんさいせいきゅうけん)です。民法では遺留分は法定相続分の半分と決められています。
例えば父親が遺書で全財産の1000万円を児童養護施設に寄付すると書き残したとします。遺書通りに遺産相続を行うと自分の手元には1円も残りません。しかし、この権利を使えば、法定相続分の半額、仮に一人っ子で母親が健在のケースなら250万円は手元に残ります。
遺留分減殺請求権の時効は相続の開始、または不当な相続があったことを知ってから1年以内となっており、これらを知らなくても10年が経過すると時効となってしまいます。
一度相手の手に渡った状態で請求するため裁判などを経ることが多く、証拠集めなどで時間がかかってしまいますのでできるだけ早めに弁護士に相談してください。
ケース3:相続税を支払うとき
一定以上の財産を相続する場合、相続税がかかってしまいます。ただ、相続税には基礎控除額が定められており、以下の数式で出された控除額を下回る場合は相続税はかかりません。
基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
そのため多くのケースでは相続税がかかることがありませんが、家屋や宅地を相続する場合、控除額を超えてしまうことがあります。
この場合でも配偶者控除や障碍者控除など特例控除で課税額を減らすことはできるのですが、これらを申告する場合、相続開始を知った翌日から10か月以内にしなければいけません。
遺産分割協議や財産調査で自分の相続額が確定してからの申告になるため10か月といっても実際に準備できる期間は少ししかありません。
専門家に相談を
このように相続に関連する時効はどれも短期間のものです。相続手続きが終わっていきつく間もなく行わなければいけないのですが、ほとんどの人はこういった決まりを知らないのも現実です。
時効になって損してしまわないために知識をつけることも大切ですが、一番確実なのは専門家に相談することです。相続については経験のある弁護士に最初から最後まで任せるのが一番安全な方法と言えるでしょう。