遺産相続では遺留分が問題になる
遺言相続は法定相続に優先する
遺産相続における財産の承継方法には、法定相続と遺言相続の2つがあります。法定相続とは民法に定められている方法で、民法上の相続人(法定相続人)全員で遺産分割協議を行い、誰が何を相続するかを決めるものです。法定相続では、原則的に民法に定められている相続割合(法定相続分)にもとづき相続財産を分けることになります。
遺言相続とは、被相続人の遺言にもとづき相続を行う方法です。死後の財産の承継方法は、本人が遺言により指定することができます。遺言がある場合には、法定相続ではなく、遺言相続が行われることになります。
遺言相続には遺留分による制約がある
遺言を作成すれば、自分で死後の財産の処分方法を自由に決めることができます。けれど、遺言を書いても、100%そのとおりにできるというわけではありません。というのも、遺産相続の際に、「遺留分」という権利を持つ相続人がいるからです。
遺留分とは、遺産相続において相続人のために確保されている最低限の取り分のことです。亡くなった人の相続人になれるのは、配偶者、子(代襲相続人含む)、直系尊属、兄弟姉妹(代襲相続人含む)ですが、このうち兄弟姉妹以外の相続人には遺留分が認められています。
相続人の遺留分を無視した内容の遺言を作成した場合、遺言どおりの相続が行われないことがあります。遺産相続に備えて遺言を作成するときには、遺留分に配慮しておかなければなりません。
遺産相続における具体的な遺留分
民法で定められている遺産相続における遺留分の割合
民法では、遺産相続の遺留分について次のように定められています。
直系尊属のみが相続人である場合・・・被相続人の財産の3分の1
それ以外の場合・・・被相続人の財産の2分の1
上記の遺留分割合は、遺留分を持つ相続人(遺留分権利者)全員が、相続財産の中で確保できる割合になります。各遺留分権利者の個別の遺留分は、全員の遺留分を法定相続分で割って計算します。
遺留分の具体例
たとえば、夫が亡くなって遺産相続が起こり、妻、長男、次男の3人が法定相続人である場合には(2)のケースになります。相続財産が8000万円だとすれば、8000万円の2分の1である4000万円が、全員の遺留分として確保されることになります。
また、この例で、3人の相続人の法定相続分は、妻が2分の1、長男、次男が各4分の1です。そのため、各相続人の遺留分割合は、次のようになります。
妻の遺留分割合
1/2(全員の遺留分割合)×1/2(法定相続分)=1/4
長男、次男の遺留分割合
1/2(全員の遺留分割合)×1/4(法定相続分)=1/8
つまり、妻は相続財産に対し2000万円の遺留分を、長男、次男はそれぞれ相続財産に対し1000万円の遺留分を持つことになります。
兄弟姉妹が相続人に含まれている場合の遺産相続における遺留分
兄弟姉妹(代襲相続人含む)が相続人になるケースは、次のア、イのどちらかのパターンになります。
ア.配偶者がおらず、兄弟姉妹のみが相続人
イ.配偶者及び兄弟姉妹が相続人
兄弟姉妹には遺産相続の遺留分がありませんから、アの場合には遺留分権利者がいないということです。この場合、遺産相続において遺留分を考慮する必要はありません。
一方、イの場合には、兄弟姉妹には遺留分がないため、配偶者1人で相続財産の2分の1の遺留分を持つことになります。
遺留分は遺留分減殺請求で取り戻す
遺留分の侵害とは
遺留分権利者の遺産相続における遺留分を奪うことを「遺留分の侵害」といいます。遺言によっても、遺留分を侵害することはできません。たとえば、相続人として自分の子がいるのに、愛人に全財産を遺贈する旨の遺言を書いた場合には、子の遺産相続の遺留分を侵害していることになります。
遺留分を侵害する遺言も有効
遺言を書くときには、遺留分に配慮した内容にしておけば、後々のトラブルもなく安心です。ただし、遺留分を無視した遺言も、直ちに無効になるわけではありません。遺留分というのは、遺産相続の際に遺留分権利者が「遺留分減殺請求」をしてはじめて取り戻しができるものだからです。たとえ遺留分を侵害されていても、遺留分権利者が遺留分減殺請求をしなかったら、遺言どおりの相続が確定します。
遺留分減殺請求権の時効
遺留分を侵害した遺産相続が行われているにもかかわらず、遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使しなければ、相続関係がいつまでも確定せず不安定な状態が続いてしまいます。そのため、遺留分減殺請求権を行使できる期間は、次ののどちらかに当てはまれば、時効で消滅することになっています。