遺留分を渡したくない相手に対し、「一切の財産を渡さない」と遺言で指示しておく
遺留分を渡したくない相続人について、その人には一切の財産を渡さないと遺言で指示しておくことができます。
遺言書は法定の相続分よりも優先されるべきものですので、遺言書に書くことで遺留分を渡したくない相手に財産を取られないようにできる可能性があります。
ただし遺留分は、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人に対し、必ず受け取れると保証されている取り分です。
一切の財産を渡したくないと遺言に書いたとしても、それが遺留分を侵害する内容の場合には、遺留分を渡したくない相手が「遺留分減殺請求」を起こす可能性は否定できません。
そうなると、何の問題もない他の相続人が遺留分の請求を受けることになります。
遺留分を渡したくない相手が、遺留分の存在自体を知らなければ遺留分を渡さないで済む可能性もありますが、やはり確実性には欠けます。
相続廃除によって、遺留分を渡したくない相手の相続権をはく奪する
「相続廃除」という制度を利用すれば、遺留分を渡したくない相手の相続権をはく奪することも可能です。
廃除ができるのは遺留分を有する相続人です。遺留分を持たない被相続人の兄弟姉妹については、相続廃除の手続きはできません(兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言書に書くだけで解決できます)。
相続廃除の事由には、具体的に次のような非行が含まれています。
・常態的に被相続人に言葉の暴力を浴びせたり、身体的な暴行を繰り返したりした
・被相続人に介護やその他の世話が必要な状況にもかかわらず、あえて世話をせずに衰弱するに任せた
・被相続人に対し人目に触れる仕方で侮辱したり、悪意を持って個人的な情報を公表したりした
・被相続人の財産を無断で消費したり、金銭の要求を繰り返したりした
・家庭外に愛人を作り、家庭を顧みない
このような事由に該当する相続人に対して相続廃除を申請し、それが認められればその人は相続人ではなくなるため、遺留分を渡さずに済みます。
相続廃除の手続きは生前にも行えますし、遺言によっても行えます。遺言による場合は、遺言書に廃除の記載をしておくなら、遺言執行者が申立ててくれます。
生前に行う場合には、被相続人が自分で手続きを行う必要があります。申立て先は、申立人である被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
家庭裁判所で行う廃除の申立ては、「推定相続人廃除の申立て」というのが正式名称です。審判申立書や、被相続人本人および遺留分を渡したくない相手の戸籍謄本、800円分の収入印紙があれば、申立てができます。
家庭裁判所へ申立てをすると、相続人廃除に関する審判が行われます。審判が開始すると家庭裁判所では廃除の理由の正当性や、廃除を申立てられている推定相続人への聴収を行い、廃除が妥当かを審理します。
確かに廃除すべき理由があると判断されれば、相続人廃除の審判がなされ、推定相続人の相続権ははく奪されます。
しかし、手続きはここで終わりではありません。
審判が確定したら、審判確定の日から10日以内に市区役所等に届け出をし、遺留分を渡したくない相手の戸籍に「廃除」の事実を記載してもらわなければなりません。
遺留分を渡したくない相手の戸籍に廃除と記載されれば、遺産相続後の手続きが非常に楽になります。期限も10日と短いですから、忘れずに届け出るようにしましょう。
遺留分を渡したくない相手の相続権はく奪を成功させるには、専門家に相談を
遺留分を渡したくない相手に対する相続廃除の申立てに関しては、可能な限り弁護士などの専門家に相談し、手続きや申請に関してのアドバイスをもらう方が良いでしょう。
先に述べた暴力や侮辱などの事由があったとしても、相続廃除はなかなか認められにくいものです。そのため、「遺留分を渡したくないから」という主張だけでは、相続廃除が認められることはないでしょう。
相続廃除を成功させ、遺留分を渡したくない相手の相続権を奪うためには、十分な証拠を用意していることが必要です。骨折り損にならないよう、専門家の助言を受けて入念な準備をしましょう。
まとめ
遺留分を渡したくない相手が推定相続人であれば、生前の手続きまたは遺言による指示によって、遺留分を渡したくない相手の相続権を奪い、遺留分を受け取る権利も奪うことができます。
もし遺留分を渡したくない相手が兄弟姉妹なのであれば、遺言書に記載しておくだけでも実行できるでしょう。