財産基本通達とは?
相続税を計算するためには、まず課税対象となる相続財産を漏れなく調査して課税遺産総額を算出する必要があります。
例えば、相続財産が1億円の預金のみであれば計算は非常に簡単なのですが、相続財産に株式や不動産が含まれてくると一気に難易度が上がるのです。
上場株式であれば日々刻々と株価が変動しますし、非上場企業の株式については市場取引相場がないのでそのままでは価額がわかりません。
不動産も同様で、預金残高のように価額がどこにも記載されていないので、相続税の納税者側で独自に計算をして価額を算出する必要があります。
相続税の課税対象となる価額のことを「相続税評価額」といい、相続税評価額の計算方法の基準や方法について示されているのが相続税法施行令における財産評価基本通達です。
今回は財産評価基本通達の中で最も重要な部分となる、土地の評価基準について解説します。
なぜ財産評価基本通達が必要なのか
土地の評価額を計算する場合、「不動産会社の売却査定を利用すれば簡単ではないか」と思う人もいるでしょう。
ただ業者の査定は価格の算出根拠が曖昧だったり、営業的要素を加味して高く査定したりすることもあるため、査定をする業者によって価格に大きなばらつきが出てきます。
そうなると、査定を依頼する業者によって相続人が納税することになる相続税に違いが生じてしまうことになり、公平な課税という問題が担保できなくなってしまうのです。
そうであれば「不動産鑑定士に鑑定してもらえばいいのでは」と思うかもしれませんが、仮に不動産鑑定士に査定を依頼してある程度の公平性が保てたとしても、税務署としては不動産鑑定士が出した相続税評価額が正しいのかどうか、その都度確認する手間がかかってしまいます。
そこで国は日本の道路に「路線価」という㎡あたりの評価額を割り振ったうえで、路線価を用いてどのように土地の相続税評価額を計算すればよいのかという基準を、財産評価基本通達に定めて示したのです。
ちなみに、国が一方的に決めた路線価を納税者に押し付けることになるので、あまり高い金額で設定するとクレームになる可能性があったため、基本的に路線価の価格は実際に売却した場合の相場よりも8割程度低く設定されています。
計算式が単純ではないわけ
路線価が㎡あたりの評価額であれば、単純に土地の地積をかければ評価額が算出できそうに感じている人もいるのではないでしょうか。
わざわざ財産評価基本通達というものを作らなくても、十分対応できそうに感じるかもしれませんが、実は相続税評価額の計算が一筋縄でいかない理由がここにあります。
地積だけでは正しい評価額は出ない
同じ100㎡の土地だとしても、すべての土地が区画整理されていて平坦な土地ではありません。
さらにいうと、長方形で100㎡の土地と円形で100㎡の土地では実際に建築できる建物の広さも違ってくるため、相続税評価額が同じになるのはおかしいということになります。
このように土地の場合は、その土地の形質や形状、周辺環境などによって細かな補正を加える必要があるのです。
実は相続税申告で最も苦労する点はここになります。
たとえ税理士だったとしても、普段から相続税を専門としていない税理士の場合は財産評価基本通達を深く理解していないため、ミスが出たりかなりの時間がかかったりすることがあるのです。
財産評価基本通達の具体例
次のような土地については、路線価と地積で算出した価額に対して一定の減額をする補正を行うと財産評価基本通達に記載されています。
・不整形地:正方形や長方形の形に整備されておらず、いびつな形状をしている土地
・無道路地:道路に接していない土地
・間口が狭小な宅地等:道路に接している部分の間口が非常に狭い土地
・崖地等:崖地がある土地
これら以外にも通常よりも土地の利用が制限される要素が含まれている場合は、財産評価基本通達に従って相続税評価額を減額することが可能です。
まとめ
今回は土地にフォーカスしてきましたが、建物や株式などあらゆる財産の評価方法について基本通達がされています。
このような基本通達があることを知らずに相続税申告をしてしまうと、間違いだらけの申告書になってしまうので注意が必要です。
現実的には初心者の方が基本通達を見て自分で評価額を計算するとミスすることが多いので、できるだけ税理士に相談することをおすすめします。