相続放棄で親族が険悪ムードに
被相続人Aさんの相続人である子Xは、Aの借金が高額で相続財産が債務超過に陥っていたため、相続発生後早い段階で相続放棄を決断しました。最初は弁護士に相談しようとも思いましたが、ネットで調べたら意外と簡単なことがわかり、自分自身で相続放棄申述書など必要書類をそろえて家庭裁判所に提出したのです。
その後、相続放棄は無事受理され相続放棄申述受理証明書を受け取りました。これをAが残した借金の債権者などに確認させたところ、Xへの請求はなくなったのでXは胸をなでおろしていたのですが、突然Aの叔父にあたるYから連絡が入りました。
被相続人Aから見たらYは弟にあたります。
「今日、兄さんが残した借金の債権者からこっちに通知がきたんだけど、一体どういうことだ。相続人は子供のAのはずだろ」
この電話を受けてAさんはハッとしました。
Aさんは借金の相続から逃れることだけを考えて相続放棄をしましたが、そのあとのことを全く考えていなかったのです。
相続放棄をするということは、自分が相続人ではなくなることであると同時に、相続権が次の順位の人に移ることになります。第一順位の子であるAさんが相続放棄をしたことで相続権は第二順位の直系尊属(父母)に移りましたがすでに死亡していたため、第三順位の兄弟姉妹であるYさんに相続権が移ったのです。
債権者から突然の請求を受けたYは怒り心頭です。なぜもっと早くいわなかったのかとAに電話で詰め寄りました。怒る理由は気持ちの問題だけではありません。
相続放棄には期限がある
相続放棄は相続開始から3ヶ月以内という期限があり、期限を過ぎてしまった場合は原則として相続放棄ができなくなります。ですからYさんが怒るのも無理ありません。
ただ、相続放棄によって相続人の順位が入れ替わる場合については、先順位の相続人全員が相続放棄をした事実を知らされてから3ヶ月のカウントがスタートするので、厳密にいえばYは相続放棄することが可能です。
とはいえ、起算日について疑義が生じる可能性なども考えると、Yが怒るのも無理ないでしょう。
相続放棄は事前の相談が大切
今回ご紹介した事例のように、相続放棄をする際には自分が相続放棄をすることでどうなるのかをまず考えることが重要です。自分が相続放棄するということは、すなわち別の親族が相続人になる可能性があります。
プラスの財産ばかりであれば、相続人になって怒る人はいないと思いますが、相続放棄をする場面というのはほとんどが債務超過です。となると、相続放棄によって相続権が移ってきた親族からすれば迷惑でしかありません。
事前に何の相談もなく一方的に自分だけ相続放棄をしてしまうと、親族に迷惑がかかる可能性があるので、この場合は手続きに着手する前にYに相談するのがベストでした。
そうすれば、Yが納得して相続するか、もしくはXとともにYも相続放棄を一緒にすれば迷惑がかからなくて済みます。ちょっとしたことですが、この段取りを踏まないと親族間でわだかまりが残る可能性がありますので十分注意しましょう。
相続放棄は取り消しできない
相続放棄は一度受理されると取り消しができない点にも注意しなければなりません。
というのも、仮に高額な借金があるからと安易に相続放棄を選択すると、その他の財産が相続できなくなり場合によっては自宅を追い出される可能性もあるからです。
自宅が被相続人名義になっている場合は、いくら借金が多かったとしても相続放棄をするとそこには住み続けられなくなる可能性があります。
この場合については、弁護士などの専門家に相談をして限定承認など他の選択肢も含めて検討することをおすすめします。
まとめ
相続財産に借金が多いと、あわてて相続放棄を選択しがちですが、次順位の相続人にも事前に伝えておかないとトラブルになる可能性があります。また、不動産が相続財産に含まれている場合は、相続放棄することでどうなるのかをよく検討したうえで決断しましょう。