自分の死後、配偶者が住むところを失わないために
相続税が発生した相続において、相続財産の約半分を占めるのは土地と建物です。多くの場合、被相続人となる人が配偶者と共に住んでいた自宅とその土地が、相続財産の中で大きなウエイトを占めることになります。
被相続人が亡くなってひとり遺された配偶者は、その後も自宅に住み続けられて当たり前ではありません。ショッキングなことですが、相続人となる子供たちに追い出される危険があります。
いずれ、被相続人となる人の中には、こう考えている方もおられるかもしれません。自分の配偶者と子供たちは、お互いに思いやりと気遣いを示しあって和やかに遺産分割をしてくれるに違いない、配偶者が住まいを失う心配など無用だ、と。
しかしながら、現実はそう甘くはありません。自分と配偶者にとっては、長年働いてやっとの思いで手に入れた大切な自宅と土地かもしれません。しかし、子供はただの「実家」としか考えていないこともあります。被相続人や配偶者と同じように、自宅とその土地を大切に思っているとは限らないのです。
成人して自分の仕事や家族を持った子供は、自分が法定相続分通りの財産を得られるよう容赦なく要求してくることもあります。実家と土地以外の財産が少なければ、実家も土地も売却して利益を分配するように求めてくることでしょう。これはどんな家庭でも考えられることです。
相続後の配偶者の生活を保護する「配偶者居住権」
相続後の配偶者の生活については、新たな制度の誕生によって、ある程度守られることが期待できそうです。2018年7月の参院本会議で、相続における配偶者の優遇策などを盛り込んだ改正民法が成立したためです。
従来は、高齢になっていることも多い配偶者が相続後に自宅を失うことで、生活に困窮してしまうことが問題視されていました。
今回の改正で、配偶者が相続以前まで住んでいた自宅は配偶者が当然に相続できるものとする「配偶者居住権」が創設されました。
これにより、自宅と土地を子供や親族に奪われる心配をせず、住み慣れた我が家に最期まで住み続けることが可能になるでしょう。配偶者居住権については、改正民法の公布日から2年以内に施行される予定です。
土地の相続税を節税するために
自宅の土地を配偶者に相続させることは、相続税の節税という意味でも有益です。配偶者が自宅の土地を相続する際には、土地の評価額を大きく減らす特例が適用できるからです。
配偶者は、子供やその他の相続人以上に特例の適用が容易な存在です。被相続人の財産形成に少なからず貢献してきたことや、相続後の生活のことが考慮されているためと思われます。
では、配偶者が自宅の土地を相続する際に適用できる2つの特例について解説します。
1.小規模宅地等の特例
被相続人が自宅または事業用地として使用していた土地を相続する際に、一定の面積までは評価額を最大で80%減額して相続税を計算するという制度です。自宅の土地については、330㎡までの土地であれば80%の減額が可能になります。
被相続人と法的な婚姻関係にあった配偶者であれば、無条件でこの特例を使うことができます。一方で、子供や親族など配偶者以外の相続人がこの特例を適用するには、少々高いハードルを超えなくてはなりません。
2.配偶者控除の特例(配偶者の税額軽減)
配偶者が相続する際、法定相続分、または1億6,000万円のどちらか高い方までの相続財産については、相続税を課さないとする特例です。
つまり、土地を含めた配偶者の法定相続分が2億円あるとしても、法定相続分である以上、相続税は一円もかからないことになります。なお、配偶者控除の特例を適用したい場合は、相続税の申告期限までに遺産分割協議をまとめておく必要がありますので注意が必要です。
配偶者控除の特例の利用は慎重に
先ほどご紹介した配偶者控除の特例は、非常に高額の相続財産でも配偶者に非課税で相続させられるため、節税効果は絶大です。
しかし、安易に利用するべきではありません。「二次相続」についても考えなくてはならないからです。被相続人の子供の立場から見ると、一時相続は父親の、二次相続は母親の相続です。
相続税がかからないからと言ってほとんどの財産を母親が相続してしまうと、やがて母親が亡くなった時、相続人となる子供が高額の相続税を課される恐れがあります。
まとめ
被相続人となる人が、生前から配偶者のために相続の準備をしておくことは、配偶者が穏やかに余生を送れるかどうかを左右します。有効な遺言書の作成は、相続準備の第一段階です。早速着手しましょう。