兄弟姉妹5人が相続人だった事例
親の遺産を子供達で分割するというケースはよくあるのですが、子供の人数が多くなると手続きをするだけでも一苦労です。
この事例では、母親の相続で兄弟姉妹合わせて5人が相続人でした。
相続財産としては、預金のほかに投資用のワンルームマンションが3戸ありましたが、すべて売却してその代金を法定相続分で分けるという「換価分割」の方法で、めでたくすんなり遺産分割協議がまとまったのです。
と、ここまでは良かったのですが、その後の手続きでいくつかの「事件」が勃発しました。
戸籍謄本は出したくない事件
相続不動産を売ったお金を相続人で分ける場合でも、一旦は不動産の名義を相続人名義に変更しなければ他人に売却することができません。
この登記の事を一般的に「相続登記」といいます。
そこで、この事例では相続人の代表者として次男の名義に変更した上で売却することにしたようなのですが、その際に必要になる書類の件で、ちょっと面倒なことを言い出す相続人が現れたんです。
相続人となったのは、長男、次男、長女、次女、三女の5人だったのですが、そのうちの次女が登記名義の変更に必要な「戸籍謄本」の提出を、あろうことか「出したくない!」と断固拒否してきたのです!
「一体なぜ?」と言いたいところですが、実は、こういうケースは結構あるんですよ。
相続人に複数の子がいる場合について、それぞれが結婚していると、すでに別の家庭を築いているため、年齢が高くなればなるほど交流は減っていきますよね。
自分の戸籍謄本を出すということは、結婚後の家族構成を他の相続人に知られてしまうことになるので、提出を嫌がられてしまうのです。
ただ、相続登記ができないと、相続不動産を売ることは現実問題として難しくなるため、なんとかしなければなりません!
戸籍抄本で解決
実は、戸籍謄本の他に、「戸籍抄本」というものがあることをご存知でしょうか?
役所の窓口に置いてある申請用紙をよく見ると、謄本の横に抄本と書かれていて、どちらを取得するか選べるようになっているんですが、知っていましたか?
・謄本:全部事項証明書と呼ばれ、簡単にいうと戸籍に記載されている人全員の情報が記載されている書類
・抄本:個人事項証明書と呼ばれ、戸籍に載っている人のうち、任意の人の部分だけの情報が記載されている書類
戸籍謄本という呼び方がメジャーになっているため、相続登記においても戸籍謄本を取得することが多いのですが、実は、本事例のように「家族の情報を知られたくない!」なんて場合は、相続人の情報だけ記載されている「戸籍抄本」をとっても大丈夫です。
本事例も、戸籍抄本を取得してもらい事なきを得ました。
遺産分割協議書の間違い発覚事件
相続登記をするためには、戸籍謄本、抄本のほかに、遺産分割の内容を記載した「遺産分割協議書」が必要なんですが、これが結構やっかいです。
というのも、遺産分割協議書には決められた書式はなく、分割内容が正確にわかるように書いてあれば問題ありません。
ただ、相続財産の詳細についても詳しく書かなければならないため、完成後に誤字脱字などのミスが発覚しやすい書類なのです。
本事例では、相続人が自力で作成した遺産分割協議書を作成し、すべての相続人に署名捺印をもらった後に誤字が発覚してしまいました。
「訂正印を押せば済む話では?」なんて思うかもしれませんが、実はそこが一番面倒なところで、訂正印は5人全員に実印を押してもらわなければならないんです!
5人の相続人がそれぞれ違う場所に住んでいる場合、リレー方式で次々と訂正印を押しながら再度回収する必要があり、本事例では、5人全員が遠方に住んでいたため、訂正印を押すために呼び出すわけにもいきません。
また、郵送の最中に紛失でもしようものなら、全部一からやり直しになってしまうんです。
なんとか見逃して!と法務局に聞いてみた
再度、遺産分割協議書を郵送して訂正印をもらっていると、売却までにまた時間がかかってしまうため、本事例では誤字の箇所を法務局に見てもらい、訂正印なしで対応できないか交渉してみることにしました。
書類の正確性を第一に考える法務局ですから、訂正印がなきゃ無理じゃないかと思うかもしれませんが、実は意外となんとかなったりすることが時々あります。
ここだけの話、相続に慣れていない弁護士などの専門家が作成した遺産分割協議書については、法務局に持ち込んだ段階で誤字などのミスが発覚することがよくあると、相続に強い司法書士が言っていました。
さて、本事例の誤字ですが、間違っていた箇所が相続財産のマンション情報の変換ミスだったこともあり、なんとか訂正印なしでOKをもらうことができました。
まとめ
不動産相続は、実際にやったからこそわかるミスやトラブルがたくさんあります。
今回ご紹介した事例は、運よく解決できる内容だったためよかったのですが、ほかにも落とし穴はたくさんあるので、相続が揉めていない場合でも、手続きについてはできるだけ相続に強い弁護士などにお願いした方がよいでしょう。