遺産相続における遺書とは
遺書とは、書きたいと思った人が何の法令にも縛られずに自分の思うままに作成できる文書です。
多くの場合は死を控えた人が、自分の死後に遺書を読む人へ伝えたい気持ちなどを書きつづる、死ぬ前に書く手紙のようなものです。遺書を書く場面で多いのは、間もなく自殺しようとしている人や、事故などで突然死が迫っている人などでしょう。
実際に海難事故や航空機事故の犠牲者の中には、死が迫っている緊迫した状況下において、死を前にした恐怖や遺される家族への想い、無念の思いなどを殴り書きして遺書とした人もたくさんいます。
自殺しようとしている人は、自殺の原因となった他人への恨みや、やり残したことへの執着など、自分の心のうちを遺書に書くことがあります。
このように遺書は作成方法の決まりがなく、死を前にした人が自由に自分の気持ちをつづることができるものとされています。
遺書という言葉の意味をより深く理解するため、英語で遺書を何と表現するかにも注目してみましょう。英語で言う遺書は、意味する内容によって次のような種類に分類されます。
Note (単純な遺書を表す場合)
Leave Note (誰宛、という明確な宛先がある場合)
Suicide Note (自殺「Suicide」する人の遺書)
状況によって表現は違いますが、どの場合も「ノート」という言葉が遺書に相当しています。ケースによってはもっと直接的に「レター」と表現されることもあります。
遺書よりも重い意味を持つ「遺言書」とは
遺言書とは、民法によって作成方法が定められており、遺産相続において法的な効力を持つ法的書類のことを意味します。
多くの場合、遺産相続をさせる被相続人が、自分の死後に発生する遺産相続において相続人同士が争うことのないよう、遺産相続させる遺産の分配方法などを指定しておく目的で作成されます。
遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」などがあり、遺産相続で法的効力を持つためには所定の内容に従って作成されなければなりません。
「自筆証書遺言」
遺言者が自筆で作成できる。簡単に作成できるが、書式に不備があると無効になる可能性がある。遺産相続開始後に家族に見つけてもらえるかは確約されていないが、見つかった場合は家庭裁判所で検認を受けなければならない。
「公正証書遺言」
公証役場で、公証人の立ち会いのもと作成される遺言書。公証人は遺言書作成のプロのため、不備による無効のリスクはない。2人の証人や、遺産相続させる遺産額に応じた費用が必要になる。
「秘密証書遺言」
公証人が遺言書の存在を証言してくれる遺言書。ただし遺言書の存在自体が秘密となるため、遺産相続開始後に見つけてもらえるかどうかは不明。
さらに遺言書は、どんな内容でもすべて受け入れられるものではありません。
遺産相続において法的強制力を持つ内容と持たない内容が法定されており、書いた内容すべてが遺言者の意のままに遺産相続において実現されるというものでもありません。
英語では遺言書のことをLast Will(最後の意思・意向)と表現することがよくあります。先ほど考えた遺書が「手紙」のような軽い意味合いであったのに対し、遺言書は死んだ人の最後の意思を伝える書類という風に受け止められます。
遺書と遺言書では、遺産相続における法的な重みがまったく異なるということが分かるでしょう。
遺産相続における遺書と遺言書の違い
では、実際の遺産相続において、遺書や遺言書はどのような違いがあるのでしょうか?決定的な違いとしては、繰り返しになりますが「法的効力の有無」があります。
遺書には遺産相続における法的効力が無いのに対し、民法の規定に則って作成された遺言書には遺産相続における法的効力があります。遺産相続においては、遺書は何の効力も発揮しないことになります。
もちろん、遺産相続の相続人が遺書の内容を尊重し実現させようとする場合には、それは相続人の自由となります。
ただし、遺言書の内容は、遺産相続において法定相続に優先して実現されるべきことです。そのため相続人は、たとえ不本意な場合であっても遺言書に従った遺産相続をすることになるでしょう。
まとめ
一見似た意味に思ってしまう遺書と遺言書ですが、その趣旨や遺産相続における法的な効力は別物です。遺産相続の際に効力のある遺言書を作成したいなら、民法の規定に従って作成しましょう。