相続税対策で生前贈与が有効なわけとは?
生前贈与について解説する前に、なぜ相続税対策になるのかについておさらいしたいと思います。
相続税が課税されるのは、原則として相続が発生した際に被相続人の方が所有していた財産です。相続税対策にはアパート経営など財産の運用で相続税評価額を引き下げるものもありますが、それ以前に基本となるのが「相続財産の削減」であり生前贈与になります。
生前贈与とは文字通り生きているうちに他人に贈与することで、生前贈与によって相続時の相続財産を減らすことが主な目的です。また、基礎控除額を超える生前贈与をした場合は確定申告が必要になります。
生前贈与は贈与税の課税対象
生前贈与をすれば相続財産は減りますが、贈与することで贈与税がかかることを忘れてはいけません。
生前贈与を検討する人の中には、贈与税の存在を知らないまま生前贈与による節税対策を考え始め、あとで確定申告が必要なことを知って焦るケースがあるため注意が必要です。
実は税率だけで比較してみると相続税率よりも贈与税率の方が高く設定されているため、単純に考えると生前贈与で確定申告する方が不利に見えるかもしれません。
ただ、生前贈与は相続とは違い次のような税制上のメリットがあります。
狙ったタイミングで実施できる
相続については人の死というタイミングで発生するため、いくら医学が進歩したといってもコントロールすることはできません。そのため、突然相続が発生して納税負担に苦しむ方もいます。
一方で生前贈与については贈与して確定申告するタイミングを家族で話し合って自由に決められるため、たとえ確定申告して贈与税が発生したとしても計画的に実施していれば思わぬ出費になることはありません。
このように生前贈与は確定申告が必要になったとしても、不意打ちにならないというメリットがあります。
基礎控除を活用して非課税で贈与できる
贈与税には年間110万円以下の贈与については贈与税を非課税とする基礎控除があるため、110万円の範囲内で贈与すれば贈与税は課税されず確定申告の必要もありません。
110万円以下という枠は1年ごとに適用されるため、毎年110万円ずつ10年間にわたって生前贈与すれば確定申告することなく1,100万円を非課税で贈与できるのです。
贈与者からすると、次の世代である受贈者の税負担を軽くできることはとても大きなメリットといえるでしょう。
贈与税の確定申告における注意点
贈与税の基礎控除を活用すれば、贈与税を非課税のまま確定申告不要で多くの財産を次の世代に受け継ぐことができますが、贈与におけるプロセスにグレーな部分があると税務調査で指摘を受ける可能性があるため注意が必要です。
ここでは、よく初心者の方が陥りやすい落とし穴について詳しく解説します。
連年贈与と定期贈与
例えば先ほどの例のように110万円の非課税枠を10年間利用し続けて確定申告なしで生前贈与した場合、合計で110万円×10年=1,100万円を非課税で贈与できますが、税務署からすると実は当初から1,100万円を贈与するつもりで贈与を始めたのではないかと疑うのです。
110万円を継続的に贈与する場合は、次の2通りの方法がありそれぞれで課税の仕方が異なります。
連年贈与:110万円を毎年贈与していく
定期贈与:あらかじめ1,100万円の贈与について合意をし、10分割で1年ごと贈与していく
つまり、定期贈与は「毎年110万円ずつ10年間にわたって受け取る権利」の贈与を受けたと評価されるため、1,100万円から基礎控除を差し引いた金額に対して贈与税が課税され、確定申告も必要になってくるのです。
一方で連年贈与については、あくまで毎年110万円を贈与しているだけなので、贈与税は非課税で確定申告は不要となります。
贈与契約書の保管が大切
連年贈与も定期贈与もやっていること自体は同じなので、税務署から定期贈与を指摘された際に連年贈与であることを証明する証拠が必要になってきます。
そこでポイントとなるのが「贈与契約書」です。
確たる贈与契約書がないまま連年贈与を繰り返していると、税務署から定期贈与のつもりだったとの指摘を受ける可能性があります。
そのため、連年贈与で相続税を節税しようとお考えの方は、必ず贈与契約書を作成し保管して、あくまで毎年基礎控除の範囲内で贈与しているだけだと主張できるようにすることが重要です。
万が一定期贈与と認められてしまうと、贈与した総額に対して贈与税が課税されてしまいますので十分注意しましょう。
通帳の管理
家族間で生前贈与をする場合、単に家族名義の口座にお金を移しておけばいいと考える方がいますが、税務署としては実質的に贈与の事実があるのかという点をチェックしてきます。
そのため、子供名義の口座にお金だけ移して通帳や印鑑は親が管理しているような場合だと、そもそも贈与と認められない可能性がありますので注意が必要です。
まとめ
生前贈与して確定申告をすることで、相続税を節税することができますが贈与契約書を作成していないと確定申告の際に定期贈与の指摘を受ける可能性があるため注意が必要です。
生前贈与は確定申告することはもちろんですが、たとえ確定申告をしていたとしても実質的に受贈者が財産を使える状態になければ生前贈与と認められない可能性があるということを覚えておきましょう。