相続した株式が暴落して大変なことになった事例
株式や不動産など、相場が変動する財産を相続する際には、万が一、価格が変動した場合のことも想定して遺産分割をする必要があります。
私がそう強く実感するきっかけとなったのが、これからご紹介する事例です。
父親が死亡し、長男、次男、三男の3人が相続人となりました。相続財産には、現預金はほとんどなかったんですが、父親は生前から熱心に株式投資をしていて、ある上場企業の株式を、時価9,000万円分保有していたのです。
今回、金額については、話を分かりやすくするために若干の調整を加えていますが、起こったトラブルは実際にあった話です!
長男以外は株式に興味なし、代償分割をすることに
本来であれば、株式を1/3ずつ3人で分けて相続すればよかったんですが、次男と三男は株式投資の知識がゼロで全く興味がありませんでした。
反対に長男は株式投資を積極的にしている人だったため、話し合いの末、時価9,000万円分の株式すべてを長男が相続して、次男と三男には代償金として、長男から3,000万円ずつ支払う旨の遺産分割で合意したのです。
長男:株式9,000万円−代償金6,000万円=3,000万円
次男:代償金3,000万円
三男:代償金3,000万円
このように、一部の相続人に偏った遺産分割の不公平を調整するために、相続人間で代償金という現金を交付することを「代償分割」といいます。
相続関連の参考書にも、このような代償分割のマニュアルのようなことがよく書かれていますが、実際の相続では参考書に書かれていない超実務的なトラブルが、しょっちゅう起こるんです。
遺産分割協議後に株価が暴落して争いに!
遺産分割協議が終わり、いよいよ代償金を振り込むという時になって事件は起きました。
なんと、長男が相続した株式が、会社の不祥事が原因で一気に株価暴落してしまったのです!連日ストップ安を繰り返したことで、時価6,000万円にまで減少。長男はさぞ困ったことでしょう。
こうなると、当初の代償金の計算は大きく狂ってきます。
長男:株式6,000万円−代償金6,000万円=0円
次男:代償金3,000万円
三男:代償金3,000万円
長男が当初取り決めた通りの代償金を払うと、事実上、長男の相続分はないも同然になってしまうのです。
焦った長男は、急いで次男と三男に連絡をして、株価が暴落したから、暴落した時価に基づいて、下記のような代償金を支払えばいいだろうと主張しました。
長男:株式6,000万円−代償金4,000万円=2,000万円
次男:代償金2,000万円
三男:代償金2,000万円
ところが、次男と三男はすでに遺産分割協議書で、長男が支払う代償金の金額を明記していたことなどから、長男の主張には応じず、予定通り3,000万円ずつの代償金の支払いを迫ったのです!
さて、皆さんならどっちの味方をしますか?
遺産分割協議書が決め手に
本件事例で最終的に決め手となったのが、遺産分割協議書です。その中で、合意内容として、3,000万円ずつの代償金の支払いが明記されていたことから、最終的には、長男が次男と三男にその通りの代償金を支払うこととなりました。
そもそも、株式については価格が乱高下するというリスクが内在している資産であるため、遺産分割協議後に暴落したとしても、しばらく経てば持ち直したり、当初よりもさらに上昇したりすることだってあるのです。
代償分割の見返りに株式を相続する場合は、価格が乱高下することを承知の上で相続する心構えが必要でしょう。
基準となる日と価格
株式や不動産など価格変動がある財産については、遺産分割協議書において、いつを基準として時価をいくらで遺産分割をするのかという前提条件についても、明確にしておくことが重要です。
この点が不明確だと、遺産分割協議がまとまった後に暴落が起きた場合、今回の事例のようなトラブルが起こってしまいますので注意しましょう。
まとめ
相続の参考書では、法定相続分や代償分割の仕組みについては書いてあっても、遺産分割した後に株価が暴落することまで想定した対策は、なかなか書いていないでしょう。
株式は不動産に比べ、乱高下が激しいので、代償分割する際には、基準日と価格の前提条件について、遺産分割協議書で明確にすることをおすすめします。