土地は長男が相続するとは限らない
子の相続権は皆平等
旧民法の家督相続では、土地などの財産は長男が相続するものでした。しかし、現在の民法では、法定相続人が法定相続分に応じた相続権を持っています。
子がいる場合には必ず法定相続人になり、長男以外の子も皆平等に相続権を持ちます。このような理由から、長男だけに土地を相続させるわけにはいかないことがあります。
遺産分割協議で長男が土地を取得する旨に合意する必要がある
土地は法定相続人全員で共有にする必要はありません。相続財産のうち誰が何を取得するかは、相続人全員による遺産分割協議で決めることになります。長男が土地を取得し、他の相続人が他の財産を取得する形で話がまとまれば、問題はありません。
しかし、実際にはすんなり話がまとまらないことも多いはずです。特に、土地以外に財産がない場合、長男が土地を取得すれば、他の相続人は取得できるものがなくなりますから、争いになりがちです。
長男に土地を譲るなら遺言や生前贈与を活用
長男に土地を相続させたいなら、生前の対策が必要になります。生前にできる有効な対策としては、遺言を書く方法があります。
長男に土地を譲る方法には、生前贈与も存在します。生前贈与なら、自分で贈与する相手を選べますから、長男に確実に土地を取得させることができます。
遺言を書いて土地を長男に相続させる方法
遺言で土地の相続人を長男に指定
遺言が残されている場合には、法定相続より故人の遺志である遺言が優先します。「土地を長男に相続させる」という遺言を書いておけば、自分が亡くなった後には、長男が土地を引き継ぐことになります。
遺言は方式通り作らなければならない
遺言は、法律で定められた方式で作成しなければ、無効になってしまいます。遺言にはいくつか方式がありますが、主に利用されているのは自分の直筆で書く「自筆証書遺言」と、公証人に公正証書の形で作ってもらう「公正証書遺言」の2種類です。
自分だけで作る自筆証書遺言は、要件を欠いて無効になってしまうリスクや、偽造されるリスク、発見されないリスクなどがあるため、遺言書を作成するなら、公正証書遺言にした方が安心です。
他の相続人の遺留分も考慮しておく
遺言を書くときに注意しなければならないのが、他の相続人の遺留分です。遺留分は一部の相続人に確保されている財産の取り分です。遺言によっても、遺留分を奪うことはできません。
たとえば、相続人が長男と次男の2人の場合、次男は遺留分として少なくとも財産の4分の1を取得できる権利を持ちます。
遺言で長男に土地を相続させたいなら、次男にも財産の4分の1以上を相続させた方がよいでしょう。次男の取得する財産が遺留分より少なくなった場合、次男が長男に遺留分減殺請求し、長男が土地の全部を取得できなくなる可能性があります。
土地を長男に生前贈与する方法
生前贈与も遺留分を侵害する点に注意
亡くなる前に長男に土地を生前贈与すれば、土地を確実に長男に引き継がせることができます。ただし、長男に土地を生前贈与する場合にも、他の相続人の遺留分が問題になる点に注意が必要です。
相続開始前1年以内に行われた生前贈与については、遺留分を侵害された人は遺留分減殺請求ができます。また、それ以前の生前贈与でも、遺留分を侵害することをわかっていながら行われたのであれば、やはり遺留分減殺請求の対象になります。
長男と次男がいる場合、長男に土地を生前贈与するにしても、次男にも相当の財産を与えるべきでしょう。
生前贈与するなら贈与税に注意
生前贈与を行うと、財産を受け取った側に贈与税がかかります。生前贈与には年間110万円の基礎控除(非課税枠)がありますが、土地の値段は通常110万円を超えますから、課税されてしまいます。
土地を相続させる場合には、相続人には相続税がかかります。相続税の基礎控除額は相続人の数によって変わりますが、相続人が1人の場合でも3,600万円となり、贈与税よりはずっと大きくなります。
一方、土地を長男に譲る場合、相続まで待ったら税金がかからないのに、生前贈与すれば贈与税がかかってしまうことがあります。
このような場合には、相続時精算課税制度を利用して贈与するのがおすすめです。
相続時精算課税とは、2,500万円までの生前贈与について贈与税を非課税とし、相続発生時に贈与財産と相続財産を合わせて相続税を計算する制度です。
相続時精算課税を利用すれば、生前に長男に土地を譲り、税金の支払いは相続時まで先延ばしにすることが可能になります。