相続税 2021.09.08

土地を相続放棄したのに金銭が必要になった!そんな時はどうすればいい?

被相続人が亡くなり、遺産よりも借金が多い場合には、相続人は相続を放棄することができます。相続放棄すれば、土地の所有権も放棄することになりますので、人によっては「無用な土地を相続できなくて、かえって良かった」と思う人がいるかもしれません。しかし、実際には、そう簡単な話ではなく、相続人には一定の義務が生じます。ここでは、相続放棄に際して、相続人に課される手続きについてご説明いたします。

記事ライター:井上行政書士

相続放棄をしたら財産はどうなるか?

相続放棄の判断基準とは?

Aさんには、母親と弟がいます。父親は既に他界しています。母親は、古い家、家の敷地、現在は全く使っていない農地を所有していましたが、先月亡くなりました。相続手続きを行うために、母親の遺産を整理していたところ、約800万円の借金があることがわかりました。

母親だけが住んでいた古い家、敷地はほとんど資産的価値がなく、また現在会社員であるAさんと弟は、既に独立してそれぞれ別に暮らしています。従って、今後農地を使うこともありません。固定資産税評価証明書を確認すると、家、敷地、農地を処分しても約200万円の価値しかないため、母親の借金を返済することは厳しい状況です。

そこで、Aさんも弟も相続放棄することにしました。相続放棄すれば、約800万円の借金を払う必要はありません。また、家、敷地、農地は国のものになり、自分たち相続人には一切関係がなくなると考えたのです。

被相続人が亡くなった後、法定相続人は、相続が開始されてから3ヶ月以内に、相続放棄するかどうかを判断しなければなりません。もしこの期間に相続放棄の手続きをしなければ、被相続人の全ての財産を相続しなければなりません。つまり、財産がほとんどなく、多額の借金があった場合には、相続人にその借金の返済義務が生じることになるのです。

ですから、法定相続人は相続が始まったらできるだけ早く、被相続人の財産を把握する必要があります。そして、財産の内容を十分検討した上で、相続するのか、あるいは相続を放棄するのか、判断する必要があります。

相続放棄の効果

相続放棄は、法定相続人の個々の判断で行って構いません。自分は相続を放棄するが、他の法定相続人は相続するということも考えられます。相続放棄をすると、その効果は相続開始に遡ります。つまり、相続放棄した相続人は最初から相続人ではなかったことになるのです。

例えば、法定相続人である兄弟が3人(長男、次男、三男)いて、長男だけが相続放棄をした場合、長男は初めから相続人でなかったことになり、次男と三男だけが相続人となります。もし兄弟3人が全員相続放棄をすれば、初めから相続人がいなかったことになります。

 

相続放棄後の問題

相続放棄の「落とし穴」。相続人の管理義務とは

相続放棄したAさんと弟でしたが、ここで思わぬ「落とし穴」がありました。相続放棄しても、不動産等の管理義務があったのです。

相続放棄した後の財産について、民法第940条第1項では、次のように規定されています。

「相続放棄した者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」

つまり、相続を放棄しても、その財産を引き継ぐ人が決まるまでは、法定相続人は自分の財産と同じように、管理しなければならないということです。例えば、法定相続人が1人だけの場合、その人が相続放棄をしても、財産を管理しなければなりません。また、法定相続人が複数いた場合、最後の相続放棄した人に財産の管理義務が課されます。

管理義務の中でも不動産の管理は要注意

例えば、財産に家があった場合、使用できる状態に保存しておかなければなりません。壁が壊れたら、金銭的な負担をして補修工事を行う必要があります。もし、壁が倒壊して歩行者などにけがを負わせた場合には、治療費を負担するなどの損害賠償責任が生じます。

また、戸締りの管理も厳密に行う必要があります。もし戸締りを怠り、犯罪集団などが勝手に使用した場合にも、場合によっては、被害者に対する賠償責任が発生する可能性があります。

なお、既に相続放棄した財産ですから、勝手に自分で処分することがあってはいけません。仮に、財産を処分してしまった場合には、相続を承認したとみなされ、借金を含む全ての遺産を引き継がなければならなくなります。

管理義務から免れるためには?

このような管理義務から免れるには、家庭裁判所で「相続財産管理人」を選任する必要があります。

相続財産管理人とは、遺産の管理を行い、債権者への支払い、受遺者への遺贈を行うこと人のことです。相続財産管理人に遺産を引き渡すことで、相続放棄をした人は、遺産の管理義務を免れることになるのです。

相続財産管理人を選任したい場合には、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、以下の書類等を提出します。

・申立書(裁判所に書式がある)

・被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本

・被相続人の両親の出生時から死亡時までの戸籍謄本

・被相続人の子どもや代襲者で死亡している人がいれば、その子どもや代襲者の出生時から死亡時までの戸籍謄本

・被相続人の直系尊属(祖父母や曽祖父母など)の死亡の記載のある戸籍謄本

・被相続人の兄弟姉妹で死亡している人がいる場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までの戸籍謄本

・代襲者としての甥や姪で死亡している人がいる場合,その甥や姪の死亡の記載がある戸籍謄本

・被相続人の住民票除票または戸籍附票

・財産に関する資料
※不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳、残高証明書、証券口座の取引内容が分かる資料など

・相続放棄者と被相続人の関係がわかる戸籍謄本

・財産管理人の候補者を立てる場合、候補者の住民票また戸籍附票

なお、上記以外にも、収入印紙800円と連絡用の郵便切手数千円程度、そして、20~100万円程度の「予納金」が必要です。予納金とは、相続財産管理人が遺産の清算を行う際の経費、相続財産管理人の報酬になるものです。

 

まとめ

多くの人は、相続放棄をすれば、相続財産とは一切関係なくなると思いがちです。しかし、特に不動産があった場合には、たとえ相続放棄をしても管理義務があります。相続財産管理人を選任して、清算をお願いするにしても、申請の際の煩雑な手続き、高額な予納金を負担しなければなりません。被相続人の存命中に不動産を処分するなど、相続財産の整理を検討する必要があります。

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