相続放棄 2017.12.15

入居者が死亡。相続人が相続放棄したらアパートはどうなる?

債務や多額の借金などマイナスの財産が遺された場合には、相続人は相続放棄をすることが多いでしょう。中には、被相続人が持ち家ではなくアパートに入居している状態で死亡し、その相続人が相続放棄してしまうこともあります。

この場合、アパートの賃貸契約はどうなるのでしょうか?残された家財道具などの財産は、相続放棄した相続人が処分して良いのでしょうか?

本記事では、アパートなどの賃貸契約の相続放棄に関する疑問の答えを解説します。

記事ライター:棚田行政書士

アパートの賃貸契約の解除は大家さんの責任で行ってもらうことになる

相続放棄をした相続人は、被相続人の財産を一切相続していないことになります。つまり、被相続人のアパート貸借人としての立場も相続放棄しているのです。では相続放棄した相続人が、アパートの解約手続きを進めてしまって良いのでしょうか?

相続放棄したなら、アパートの解約をしてはなりません。もし相続放棄した相続人がアパートの解約をしてしまうと、相続放棄の事実が認められなくなり、単純承認した(相続することを認めた)ことになってしまうからです。

相続放棄した相続人にはアパートの解約に関して何の権利もありません。ですからアパートの大家さんが賃貸借契約解除を申し出てきても、相続放棄した相続人はそれを受けることができないのです。

被相続人のアパートの解約に関しては、相続放棄した相続人にできることは何一つないということになります。

ではアパートの大家さんはどうしたら良いのかと考えてしまいますが、こればかりは大家さんの責任で解決してもらうしかないのです。どのみち賃料を得られない部屋となった以上、大家さんがアパート内の残置物を処分して賃貸契約を解除するしか道はないことになるでしょう。

しかしながら、相続放棄した相続人にアパートの解約はできませんが、アパート内の残置物については相続放棄した相続人にもできることがあります。

それについては、次の項目で詳しく説明します。

 

相続放棄が否認されないために、アパート内の相続財産の扱いに注意

アパート内の残置物や家財道具を相続放棄した相続人が処分してしまうと、単純承認したものと見なされてしまい、相続放棄の事実は否定されてしまう恐れがあります。

しかしアパート内の残置物や家財道具は、相続放棄した相続人であっても「保存」することが可能とされています。

 

相続放棄した後の管理と処分について

相続放棄をすれば遡って相続人ではなかったことになるので、相続財産を勝手に処分することはできなくなります。

これに関しては、民法第921条で次のように定められています。

【民法第921条】

次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条(短期賃貸に関する法) に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

このように、相続放棄した相続人が相続財産を保存する行為は単純承認とは見なされないのです。大家さんからアパートの残置物や家財道具の処分を求められた場合、ひとまずは荷物をすべて運び出して別の場所へ保存しておくことは可能と考えられます。

人一人分の荷物ですから、自宅に保管するスペースはない場合がほとんどでしょう。そのような場合は、トランクルームやレンタルコンテナなどを借りて保管するという方法もあります。

とりあえずこのような仕方で相続財産の保存はできますが、いずれは処分しなければならなくなるでしょう。その場合は、相続を承認した相続人に荷物を託すしか方法がないことになります。

相続を承認した相続人がいない状況でどうしても処分しなくてはならなくなった場合は、相続財産管理人を選任して財産を引き渡し、管理してもらうしか方法がありません。

ちなみに、明らかに交換価値のない財産について「形見分け」程度に処分する分には、単純承認したとはみなされないでしょう。明らかに交換価値のない財産とは、高価でなく使い古した衣類や食器、家具や壊れた調度品などです。

ただしくれぐれも、形見分けの範疇を超えない程度にとどめるよう注意する必要があります。

相続放棄した後の責任について

こういう説明をすると「じゃあ相続放棄をすれば、一切責任なくなるんでしょ」という言い方をする人がいるのですが、決してそういうわけではありません。相続放棄したからといって、突然放り出されたら誰かが不利益を受ける可能性も考えられます。そのため民法では次のような規定があります。

【民法第940条】

相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

例えば賃借人が死亡した場合の相続の場合、賃借人の相続人が相続放棄して一切何もしないとなると、室内に残されていた食べ物が腐敗して異臭が発生する可能性が懸念されます。このようなことが起こらないように、相続人は相続放棄をしたとしても、それによって繰り上がって相続人になった人が管理を始めることができるまでは、自分の財産と同じように管理を継続しなければならないと規定しているのです。

実はこの規定は実務上結構重荷になることがよくあります。

というのも、相続人が全員相続放棄をするようなケースでは、相続放棄をしていても代わりに相続財産を管理してくれる人が選任されるまでは事実上管理し続けなければならなくなることがあるからです。では、どうすれば管理責任から逃れられるのでしょうか。

 

相続財産管理人の選任とは

相続人が誰もいない場合や相続放棄をしていなくなる場合は、相続財産管理人という人を選任してもらう必要があります。

相続財産管理人とは、遺産の管理業務を行う人のことで相続人が行うべき相続財産の管理や必要な精算を行う人のことで、亡くなられた方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で申し立てて通常は弁護士が選任されます。

よって、相続放棄をして全員相続人がいなくなる場合は相続財産管理人の選任申し立て手続きを早急に始めることが大切なのです。

 

相続財産管理人選任にかかる費用

相続財産管理人選任の申し立てにあたっては、次のような諸費用がかかります。

・収入印紙

裁判所に提出する書類に貼る収入印紙代として800円必要です。

事前に準備してもいいですし、東京の場合は裁判所にあるコンビニ内でも所定の収入印紙が購入できます。

自分で申し立てる場合は書類に不備があるとやり直しになるので、収入印紙は貼らずに窓口に持参することをおすすめします。

・郵便切手

申し立てする際には、裁判所に郵便用の切手を一定額預ける必要があります。

預ける金額や枚数については地域によって細かく指定されていますので、切手を購入する前に管轄の裁判所に問い合わせて確認してください。

・官報公告費用4,230円

相続財産管理人が選任された際に掲載することになる、官報への掲載費用です。

官報とは国が発行している刊行誌で、そこに掲載されることで広く一般に伝えるという意味があります。

・予納金

相続財産管理人が選任される際に、ケースよっては予納金の納入を求められることがあります。

予納金とは相続財産管理人が業務を行うにあたってかかる経費や報酬に充てるものです。そうなんです。相続財産管理人はただでやってもらえるわけではありません。

例えば、相続財産のうち預貯金などの遺産が十分にある場合であれば、そこから経費や報酬をねん出するのですが、借金などの負債が多くて経費や報酬をねん出できないこともあるので、そういった場合に備えて予納金の納入が必要になるのです。

・予納金が払えない場合

予納金が高額になると一括で支払えないというケースもありますが、裁判所は分割払いなどに対応していないので申し立てするには指定された金額を準備しなければなりません。

実際、相続財産管理人の選任申し立てをした人の中には予納金を金融機関などから借り入れをしたという話も耳にします。

予納金の金額については、事案に応じて幅があり20万円前後のこともあれば100万円を超えることもあるので一概には言えませんが、高額になる可能性があるということは認識しておいた方がよいでしょう。

 

アパートの電気・ガス・水道の解約は、相続放棄した相続人が代行可能

相続放棄した相続人が被相続人のアパートの賃貸契約を解除することはできませんが、アパートの電気・ガス・水道といった契約については相続放棄した相続人が代行することができるとされています。

先に取り上げた民法第921条の「相続財産の処分」には該当しない行為とされているからです。

被相続人のアパートの賃貸契約解除は、相続放棄した相続人が行うことはできません。アパート内の残置物を運び出して保存することは可能ですが、処分してしまうと単純承認したものと見なされてしまいます。

これに対し、明らかに価値のない財産の形見分け、およびアパートの電気・ガス・水道の解約は、相続放棄した相続人が行うことができます。

相続放棄をする際には、単純承認とみなされる恐れがある行為を避ける必要がありますので、よく覚えておきましょう。

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