相続税 2020.08.07
認知症の母が遺言書を書いた、有効性はどう証明する
相続対策として有効とされている遺言書ですが、個人的には遺言書があってもめなかったという話の方がむしろ珍しく感じます。というのも、遺言書の多くは亡くなられた方の一方的な意思であることが多く、相続人がその意思に納得するとは限らないからです。
今回は遺言書トラブルの中でも泥沼化しやすい、「認知症リスク」について解説したいと思います。
気に入らない遺言書にはケチが付く
遺言書の内容にすべての相続人が納得していれば特段の支障はありませんが、取り分が少ないなどの理由で気に入らない相続人が出てくると、様々な主張をされることがよくあります。
中でも大きなリスクだと感じるのが、認知症リスクです。
平均寿命が伸びている中、かなりのご高齢になられてから死亡するケースが増えてきています。そうなると、亡くなる時点で認知症を発症していることも少なくないでしょう。
仮に認知症患者が死亡して相続が発生した際に遺言書が見つかると、遺言書の効力をめぐって争いになることが多々あります。
遺言書を書ける人
遺言書は法律で15歳になれば書くことが可能となっていますが、15歳以上であれば誰でも書けるわけではなく、遺言書が書けるだけの判断能力である「遺言能力」がなければなりません。
仮に90歳の方が遺言書を書いた場合、それが本人の意思で書いたものなのか、相続人が本人をたぶらかして書かせたものなのかが問題になるのです。
遺言書の内容が一部の相続人にとって有利な内容になっている場合、「高齢の両親に無理やり書かせたんじゃないのか」という疑いをかけられたりします。
遺言能力にケチがつくと大変
実際のところ、一部の相続人から
「認知症だったはずだから、遺言書は無効だ」
といった主張をされると、遺産相続が泥沼化する可能性が高まります。
というのも、死亡時には認知症だったとしても重要なことは遺言書を書いたその時に認知症だったかどうかで判断することになるので、いずれにしても証明が難しくなるのです。
遺言書を書いた当時に遺言能力があったかどうかは、当時の診断記録や診断書、カルテ、さらには日常の看護記録や介護保険の認定などの記録から、1つずつ確認していくことになります。
これは主張する側もされた側も非常に大変なので、ご高齢の方が遺言書を書く際には、相続発生後に遺言能力の有無をめぐって争わないよう、対策をとっておくことがおすすめです。
作成状況を動画撮影する
遺言書作成時の遺言能力を客観的に証明する1つの対策として用いられることがあるのが、動画撮影です。
遺言書の作成を始める前の意思確認から、直筆で記載している状況などをすべて動画で撮影して一緒に保管しておくことで、遺言能力について争いになった場合の重要な証拠となります。
医師の立ち合いで作成する
認知症で成年被後見人になってしまうと、遺言書を書くことは非常に難しくなりますが、実は1つ方法があることをご存じでしょうか。それは医師2名の立ち合いです。
成年被後見人だとしても、遺言書を作成する際に医師2名が立ち会って判断能力があることを証明すれば、有効な遺言書を作成できます。
現実的に医師に立ち会ってもらうことは簡単ではありませんが、弁護士や公証役場に相談すると立ち会ってくれる医師を紹介してくれる場合もあります。
ただ、大前提として遺言書を書く時に本人の判断能力があることが前提なので、医師さえ立ち会えば誰でも有効な遺言書が作成できるというわけではありません。
例えば認知症の方でも、正常な判断ができる時とできない時がある人もいますので、正常な判断ができる時を狙って遺言書を作成すればよいのです。
医師の立ち合いによる遺言書の作成は、相続発生後のトラブルを回避するための重要な手段となりますので、たとえ成年被後見人ではなくても心配な方は医師の立ち合いのもと遺言書を作成するのがおすすめです。
実際、老人ホームなどの高齢者施設や病院などに相談すれば、医師の立ち合いによる遺言書作成に協力してくれることもあるそうなので、迷っている方は一度相談してみるとよいでしょう。
まとめ
遺言書の作成というと遺言書の内容ばかりに気をとられがちですが、ご高齢の方は遺言書の有効性自体を争われることにも配慮する必要があります。
遺言書を作成する前後の病院の受診記録や診断記録なども、できれば一緒に保管しておくとトラブルを抑制できるでしょう。
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