相続税 2020.01.27

農地(生産緑地)の相続で利用できる「相続税の納税猶予」とは?適用条件や注意点も解説

相続税については原則として相続開始から10ヶ月以内に申告と納税をしなければなりません。一定の要件を満たせば、延納して分割で支払うことが認められる場合はありますが、基本的には現金一括納付が原則です。

そんな中、農地を相続した場合については相続税の納税猶予制度を利用することができるのですが、制度の仕組みがよく分からないというご質問をよくいただきます。

そこで今回は、農地における相続税の納税猶予制度について難しい要件などはあまり触れずにわかりやすく解説します。

記事ライター:棚田行政書士

相続税の納税猶予とは

相続税の納税猶予とは農地を相続した際、相続人が一定の設備投資をした場合に相続税の一部について納税猶予を受けられるという制度です。食料自給率が低い日本において、農地の相続人が引き続き農業を営むことは非常に重要な意味を持ちます。

国としては農地を農地として維持していくためにも、相続人には農業を続けて欲しいため設備投資をして農業を一定期間継続する相続人に対して相続税の納税猶予を与えているのです。

なぜ農地(生産緑地)に対する相続税の納税猶予制度があるのか

なぜ農地に、このような「相続税の納税猶予」の制度があるのでしょうか。

例えば、被相続人の財産の中で農地が大部分を占めていて、相続税を納めることができない場合、相続した農地を売って、その売却益を相続税に充てる相続人が少なからずいることが想定されます。

しかし、そのような事態が頻発すると、農作物を生産する土台である「農地」を維持・確保ことができなくなります。その結果として、農作物の自給率が低下することになり、「日本の農業」を守ることができなくなることが考えられます。

そこで、相続人が農地を相続し、一定の設備投資をした場合には、相続した農地を今後使用していくものとみなして、相続税の納税を猶予するという制度が作られたのです。

また、農地が場合によっては、予想外の高額な相続財産になる場合もあります。

農地には大まかに、純農地、中間農地、市街地周辺農地、市街地農地の4種類があります。

純農地は、農用地区域内にある農地、あるいは市街化調整区域内にある農地のうち第3種農地、または甲種農地です。つまり、周辺一帯に農業を営んでいる土地が多い地域の農地というイメージです。

中間農地は、第4種農地に該当する農地等で、純農地と市街地周辺農地(詳細は後述)の中間に位置する農地です。

市街地周辺農地は、第5種農地に該当し、中間農地よりも市街地の近くにある農地です。市街地農地は、文字どおり市街地にある農地で、人が多く住む街中にある農地です。

それぞれの農地の評価額の算定方法は、異なります。

例えば、純農地や中間農地は、「倍率方式」によって評価されます。倍率方式とは、土地に接した道路に「路線価」が付いていない地域の土地を評価する方式で、農地の固定資産税評価額に国税庁が公表している「評価倍率表」に記載された倍率をかけた額が評価額です。

また、市街地周辺農地は、農地を市街地農地として評価した金額に80%をかけた価額が、評価額となります。さらに、市街地農地は、倍率方式、あるいは宅地比準方式で評価額を算定します。倍率方式は、「評価倍率表」に記載されている場合に評価します。宅地比準方式とは、農地を宅地とみなして評価した後で、宅地に転用する場合にかかる造成費用の相当額を差し引いた金額です。

この算定方法では、市街地農地は宅地とほぼ同額に評価されることになります。従って、市街地農地は「宅地並み課税」と呼ばれることもあります。

つまり、評価額は純農地や中間農地が最も低く、市街地周辺農地、市街地農地と、市街地に近づくほど高くなる仕組みになっているのです。従って、都市部の市街地やその周辺の農地を相続すれば、かなり高額な相続税を課されることになるのです。

もしこのような状況になれば、被相続人から農地を相続した人が農業を引き継ぎたいと思っても、高額な相続税がネックとなり、農業を続けることができないという事態になりかねません。

そこで、評価額の高い農地を相続した人が、安心して農業を引き継ぐことができるように、猶予制度が設けられたのです。

相続税はいつまで納税猶予してもらえるの?

相続税の納税猶予は次のいずれかの時点まで適用されます。

・相続人が死亡した時

・相続人が農業を引き継いで20年経過した時

・後継者に一括で贈与し贈与税の納税猶予を受ける時

上記いずれかの時を迎えた際には、その時点で相続税が課税されるのではなく、相続税が納税猶予から免除に変わります。つまり相続税を支払わなくてよくなるのです。

農地については20年間農業を引き継いで営んでいれば、相続税の一部は免除されることになります。要するに、相続税の納税猶予制度は事実上の免除制度なのです。

納税猶予の取りやめ

このように農地については相続人が農業を引き継げば事実上相続税が免除されるわけですが、場合によっては引き継いだ後に農業を廃業したくなる可能性もありえます。

農地の相続税の納税猶予制度は原則として取りやめることを前提としていませんが、どうしても継続していくことが難しい状況になった場合については「相続税の納税猶予取やめ届出書」を税務署に提出しなければなりません。

基本的に相続税の納税猶予の取りやめは想定されていないため、書式については「贈与税の納税猶予取りやめ届出書」を相続税に変えて代用する形となります。

「贈与税の納税猶予取りやめ」における注意点

相続税の納税猶予取りやめ届出書を提出すると、納税猶予を受けていた額に対して利子税が課税されるため十分注意しましょう。

利子税とは、本来国税を延納する(納税の期限を延長して納める)場合に、その期間に応じて課される附帯税のことです。

納税猶予を取りやめた場合には、納税猶予の特例の適用を受けた日からやめた日までに国からお金を借りているのと同じ状態、言い換えれば延納をしていた状態とみなされるために、この「利子税」が課されるのです。

 

相続税の納税猶予が取り消される場合

相続税の納税猶予は非常に魅力的ですが、一定の事由が発覚した場合については納税猶予を打ち切られる可能性があるため注意が必要です。

次の事由に該当する状態になると、納税猶予が打ち切られます。

・面積の20%を超える部分について譲渡、贈与、転用、賃貸借などをした場合

※20%以下の場合は一部の打ち切り

・農業経営を廃止した場合

・農地の一部を後継者に生前贈与した場合

・継続届出書を3年ごとに提出しなかった場合

・税務署長の命令に従い増担保または変更に応じなかった場合

このほかにも一定の事由に該当すると、納税猶予の一部が打ち切られる可能性があります。

基本的には相続した農地についてそのまま農業を営んでいれば概ね問題はありませんが、継続届出書の提出を忘れると打ち切られる可能性がありますので注意が必要です。

詳しくは、最寄りの農業委員会事務局に問い合わせの上確認しましょう。

 

農業をやめるとどうなる?

相続税の納税猶予を受けるためには農業を継続する必要がありますが、人によっては農業を廃業してアパートを建てたいというケースもあるかと思います。

農業を引き継がないのであれば相続税の納税猶予は受けられませんが、かといってそれだけですぐにアパートを建ててよいというわけにはいきません。

冒頭でも解説した通り、農地が農地でなくなるということは広い意味でいえば食料自給率にも影響を及ぼすことなので、一定の許可が必要になります。

農地転用の手続きとは

農地を農地ではない用途に使用することを「農地転用」といい、30ヘクタール以下の農地については農業委員会に申請したうえで、都道府県知事又は指定市町村長の許可を受ける必要があります。

農地面積が30ヘクタールを超える場合やその他必要な場合については、農業委員会またはネットワーク機構から意見聴取を受けることとなり、農林水産大臣との協議が必要になることもあるため注意しましょう。

なお、市街化区域内の農地については上記許可が不要で農業委員会に届出を出すだけで転用することができます。

 

まとめ

農地を相続する場合については農業を引き継ぐか転用するかで迷う方も多いですが、相続税の負担を考えると転用せずに納税猶予を受ける方がよいでしょう。

農地を転用する際には市街化区域内を除き許可が必要になりますので、事前に弁護士や行政書士などに相談することをおすすめします。

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