相続税 2020.09.04
遺言書で全額寄付はヤバい、何でも遺言書が優先されると思ったら大間違い
相続対策として遺言書を書く人が増えているように感じます。
最近では書店で遺言書作成キッドが売られていますし、ネットで調べれば書き方なども簡単にわかるので、気軽に作成できる環境が整いつつあります。
ただ、遺言書はみなさんが思っているよりも諸刃の剣的な側面が強く、相続対策どころかかえってトラブルになることも少なくありません。
そこで本記事では、遺言書のせいでトラブルに発展した事例についてご紹介したいと思います。
遺言書でよくある誤解
遺言書を書こうとして相談にこられる方からよく聞かれるのが「遺言書と法定相続分どっちが優先されるのか」という質問です。
相続は基本的に亡くなる方の意思が尊重されるので、法定相続分よりも遺言書の内容の方が優先されます。ですが、これをそのまま認識してしまうと将来相続が発生した時にトラブルになることがあるのです。
実際、この言葉を信じて自分の好き勝手に遺言書を書いたせいで、多方面に迷惑がかかった事例があります。
遺言書で寄付をした事例
Xさんは遺言書の内容が法定相続分よりも優先されると聞いたことで、自分で遺言書を書くことにしました。Xさんには子供が2人いましたが、どちらも不良で財産を相続させてもろくなことに使わないと考えたため、遺言書に遺産は全額ある団体に寄付することを明記して亡くなりました。
相続発生時に遺言執行者である親族がその遺言書の内容を執行して、遺産の全てを団体に寄付したのですが、これに納得がいかなかった子供2人が団体を相手に遺留分侵害額請求をしたのです。
子供の遺留分は無視できない
兄弟姉妹以外の相続人については、被相続人の死亡によって生活がおびやかされることを防止するために、遺留分という最低限の保護された取り分が民法で決められています。
今回の事例でいうと子供2人にはそれぞれ1/4ずつの遺留分が認められることから、全額寄付した団体から1/2を返還してもらうことになったのです。
団体側が相続に詳しければ、予め遺産を受け取る際に遺留分権利者の有無や意思確認をするかもしれませんが、たいていの場合はそこまで気が回りません。
受け取った寄付金をそのまま使ってしまう可能性も考えると、今回の事例のように子供が遺留分侵害額請求をしてくると返還するためのキャッシュフローの調整が大変です。
よって、返還がスムーズに進まず相続人と団体との間でトラブルになる可能性も考えられます。
遺留分侵害額請求は、遺留分を侵害した部分の金額を金銭で支払うという請求権なので、遺留分侵害請求をされると必ず金銭が必要になり、すでに消費してしまっている場合はトラブルになることがあるのです。
遺言書は書けばいいわけじゃない
このように遺言書は法定相続分よりも優先されるものの、遺留分よりは優先順位が低いので、あまりにも偏った遺言書を書いてしまうとかえってトラブルを誘発する危険性があります。
相続対策に遺言書が有効であると一般的にはいわれていますが、実務的には遺言書があったせいでトラブルになってしまうケースの方が多いといっても過言ではありません。
弁護士などの専門家に相談して作成した遺言書であればよいのですが、自己流の遺言書については遺留分が考慮されていないことがよくありますので、遺言書を作成する際には必ず事前に専門家に相談することをおすすめします。
先ほどの寄付の事例であれば、子供2人の遺留分については侵害しない程度の割合に止めておく方が賢明です。いくら自分の意思とはいえ、あまりにも相続人の気持ちを無視した内容ですとトラブルに発展する可能性があります。
附言を活用する
遺言書によるトラブルを防ぐためには、附言を活用することをおすすめしています。
附言とは、遺言の効力には直接影響を及ぼさない部分のことで、被相続人自身の気持ちなどを書いた部分のことをいいます。
弁護士によっては、法的に効力のないことは書かないほうがいいという方もいますが、個人的な見解としては、相続は法律だけで一刀両断できない部分があるため、相続人に納得してもらうためにも、附言としてなぜそのような分け方にしたのか、理由を明確に書いておくことをおすすめしています。
まとめ
遺言書を使って寄付を検討する人もいるようですが、その前に遺留分を持つ相続人がいるかどうかを必ず確認してください。遺留分は遺言書よりも最終的に優先されますので、その点も踏まえて慎重に書くことをおすすめします。
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