相続税 2021.02.25

団体信用生命保険に加入していない場合の相続対策

遺産相続というとプラスの財産ばかりを気にする方が多いですが、実は相続においては借金などのマイナスの財産の重要性も高いです。
特に住宅ローン返済中の方の相続では、残債務が高額になることもあるため注意しなければなりません。
そこで本記事では、団体信用生命保険に加入していない方がお亡くなりになられた場合にどうなるのかについて詳しく解説します。

記事ライター:棚田行政書士

住宅ローンがチャラになる団体信用生命保険とは

住宅ローンを組む際には、団体信用生命保険に加入するのが一般的です。

団体信用生命保険とは、ローン返済中に本人が死亡した際に、ローン残高相当額の保険金が支払われる保険で、これにより相続人はローン残債を相続しなくて済みます。

そのため、通常住宅ローン返済中の方が死亡したとしても、相続人が引き継いで負担することはあまりありません。よく、相続人の方から「残っているローンは私たちが払うのでしょうか?」と聞かれるのですが、本人が団体信用生命保険に加入していれば保険会社に連絡することで、保険金が支払われてローンはチャラになるのです。

団体信用生命保険は住宅ローンに限らず、不動産投資ローンでも加入できるので、本人が死亡した場合には、ローンが消滅して賃料を生み出す木となった投資物件が、残された家族の生活費を支えることにもなります。

 

団体信用生命保険に非加入だった場合

団体信用生命保険は加入時の健康状態などによっては、加入ができないこともあるため、人によっては住宅ローンを組んでいても団体信用生命保険に非加入ということがあり得ます。

通常、住宅ローンを組む際には団体信用生命保険への加入が必須になっていることが多いですが、フラット35では非加入でもローンが組めるようになっているため、これを利用している人が死亡した場合は相続人がローンを引き継がなければなりません。

この際、本人が若い時に別途生命保険に加入していれば、生命保険金をうまく充当してローン残債を支払うことができますが、そうでない場合は相続人に負担が直撃します。

純資産で打ち消す

団体信用生命保険に非加入だった場合、残っている住宅ローンは相続財産のうちマイナスの財産としてカウントされます。ここでポイントになってくるのが、相続税の計算です。

相続税の課税対象となる課税遺産総額は、簡単にいうとプラスの財産からマイナスの財産を差し引いた金額がベースになります。(別途各種控除は差し引かれます)

つまり、住宅ローン残高相当額はマイナスの財産としてプラスの財産である純資産から控除できるのです。

例えば、プラスの財産が6,000万円、法定相続人が3人の場合、基礎控除額は次のようになります。

3000万円+600万円×法定相続人の人数3人=4,800万円

よって、単純計算すると1,200万円が相続税の課税対象になります。

住宅ローン残高が2,000万円あって、団体信用生命保険に非加入だった場合はここが相殺されるので、相続税は課税されないことになるのです。

 

団体信用生命保険に非加入の場合の相続対策

このように団体信用生命保険に非加入の場合は、相続税については一定の控除効果はありますが、結局のところローン残高については相続人が引き受けなければなりません。

被相続人予定者に別の金融資産があって、それを売却すれば完済できる見込みがあれば問題ありませんが、不足する場合については事前に家族と話し合っておく必要があります。

こういったケースでは、本人が新たに生命保険に加入することが難しいことが多いので、別の方法で資金準備を考えなければなりません。

一番確実な方法が、相続人予定者の貯蓄です。

ローン返済額相当を毎月貯蓄していけば、相続までの間にはある程度の金額が貯まる可能性がありますし、長生きをしてくれればその分はそのまま貯蓄として生かすことができます。

後は、相続人予定者が生命保険に加入するという方法もあります。

生命保険は死亡した場合に保険金が支払われるだけでなく、契約中でも既払い保険料に応じて一定額の借入をすることが可能です。

実際、新型コロナウイルスによる所得減少で生命保険を解約して解約返戻金を受け取ろうとする人がいましたが、実際は解約しなくても一定額の借入ができるので突然まとまったお金が必要になった際にとても便利です。

別の生命保険で打ち消す場合の扱い

団体信用生命保険ではなく、通常の生命保険に加入していてその保険金を住宅ローンの返済に充当する場合は取り扱いが異なります。

団体信用生命保険の場合は、住宅ローンが消滅する性質があることから債務控除の対象にはなりませんが、通常の生命保険については別扱いなので住宅ローンは債務控除の対象です。

債務控除とは相続税の計算において、亡くなった方の借入金や未払金などの負債をプラスの財産から差し引くことで、相続税がその分低くなります。さらに、生命保険金には相続税の基礎控除とは別枠で500万円×相続人の人数分の非課税枠が適用されるのでさらに節税効果は高まります。

仮にプラスの財産が1億円、住宅ローンが3,000万円、死亡保険金1,500万円、相続人3人の場合、課税対象になる価額は次の通りです。

課税対象=プラスの財産1億円-住宅ローン3,000万円+死亡保険金1,500万円-死亡保険金の非課税限度額1,500万円=7,000万円

このように死亡保険金の非課税枠を活用すれば、保険金受取分についても債務控除することが可能です。

 

まとめ

被相続人が団体信用生命保険に非加入というケースは稀ですが、加入していると思い込んでいると相続発生時に相続人に大きな負担がかかります。

もしもご両親が住宅ローンを組んでいて返済中の場合は、団体信用生命保険の加入状況について確認しておくことをおすすめします。

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