相続税 2021.09.28
遺産分割協後に多額の借金が発覚!相続放棄はできるのか?
被相続人が亡くなり、相続人が遺産の分割を終えた後で、新たな被相続人の財産が見つかる場合は少なくありません。財産であれば、再度分割すればいいのですが、仮に多額の借金が発覚した場合、相続放棄することはできるのでしょうか。ここでは、このような場合の対処法について、ご説明いたします。
遺産分割協議後の相続放棄はできる?
遺産分割協議の意味
被相続人が亡くなり、被相続人の財産は、法定相続人の「共有財産」となります。もっと厳密に言えば、被相続人の財産(遺産)を分割するまでは、法定相続人の共有財産です。つまり、法定相続人であっても、遺産分割の方法が決まるまでは、勝手に処分(売却など)をすることはできません。
被相続人が遺言書を残していなかった場合、遺産を分割する話し合い(協議)を行います。また、遺言書があっても、法定相続人全員の同意があれば、遺言書の記載された内容と異なる分割方法を取ることができます。
遺産分割の方法について、法定相続人全員が納得した後は、「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員が署名・捺印します。なお、捺印する際の印鑑は、市区町村役場に届け出ている実印でなければなりません。また、印鑑証明書を取り寄せて、協議書に添付します。
その後は、現金であれば、被相続人の口座から引き出して、協議書どおりに分割します。また、家屋や土地などの不動産は、法務局で名義変更を行います。いずれの手続き場合も、遺産分割協議書と印鑑証明書が必要です。
借金の遺産分割協議
上記は、遺産(プラスの財産)の分割方法ですが、被相続人の財産には、マイナスの財産、すなわち借金があることも考えられます。
この場合も、先程の遺産分割の方法と同じです。法定相続人全員で話し合いを行い、誰が借金をいくら負担するかを決めることになります。誰でも、借金を負うことは嫌なことですから、法定相続分で分けるなどの提案が落としどころになります。
借金を大幅に上回る遺産があれば、借金を引き継いでも良いと思う相続人がいると思いますが、借金の方がはるかに高額の場合は、相続放棄することも一つの選択肢です。相続放棄は、法定相続人の一人一人に認められた権利ですから、他の相続人の意向を考慮に入れることなく、自分の判断で行うことができます。
遺産分割と相続放棄の関係
相続放棄をすれば、被相続人の全ての遺産、借金を放棄することになります。そして、相続放棄した相続人は初めから相続人でなかったことになります。
但し、相続放棄をした後に、被相続人の財産を使い込んだ場合には、相続放棄が取り消される可能性があります。法的には、被相続人の財産を処分することは、自分を相続人だと認めたことになると解釈されるからです。
この考え方から言えば、一度被相続人の財産を分割して相続したのであれば、その人は相続人であることを自ら認めたことになります。従って、遺産分割後に被相続人の借金が発覚しても、既に相続人であることを自認している以上は、相続放棄することはできないことになります。
相続放棄が認められるケースとは?
一度相続の手続きを行った相続人は、後で被相続人の借金が判明しても、その借金を返済する義務を負うことになります。
しかし、遺産分割協議を行う段階で、被相続人が持つ借金の存在を全く知らなかったことが証明できれば、一度行った遺産分割協議を無効として、改めて相続放棄することができます。
実際に、以下のような場合に、相続放棄できたという判例があります。
・遺産分割協議そのものに重大な勘違いがあった。
・法律上の相続人であることを認めていないと考えられる余地がある。
・被相続人の借金の存在を知って3ヶ月以内に行った相続放棄である。
但し、同じような事例でも、一度行った遺産分割協議を無効として相続放棄を認めたケースと、認められなかったケースがあります。また、遺産分割協議に重大な勘違いがあった場合には、具体的な理由や起点、つまりいつから重大な勘違いをしていたかということを立証する必要が出てきます。
従って、このような場合では認められ、このような場合には却下されるという明確な基準はありません。あくまでもケースバイケースで判断されるということです。
遺産分割協議の前に行うべきこと
上記のように、一度行った遺産分割協議を覆すことは、容易なことではありません。しかも、遺産分割協議書には、相続人全員が実印を押印していますから、相続人全員で協議したことを軽々しく扱うことは、決してあってはならないことです。実印を押印するということは、法律の観点から見れば、重要かつ重大なことだからです。
このように考えると、遺産分割協議を行う前には、徹底して被相続人の財産を洗い出す作業が不可欠となります。相続放棄の期限は、被相続人が亡くなって3ヶ月以内ですから、この期間をフルに使って、被相続人が残した資料などを丁寧に吟味する必要があります。そして、少しでも疑問に感じることがあったら、判明するまで調べ上げることが重要です。
まとめ
終活がブームになり、自分の財産をまとめた「エンディングノート」を作成している人も少なくありません。また、遺言書を作成し、自分の財産をリストアップしている人もいるはずです。しかし、後に残された相続人は、被相続人が残した資料のみを頼りにすることなく、自分たちで徹底して被相続人の財産を洗い出すことが重要です。
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