相続税 2022.04.18
相続した家。長く住み続けると自分のものになる?
親が残した実家に、相続手続きをしないまま住み続けている人もいると思います。ところで、他人名義の家でも長く住み続けると自分のものになるケースがあるのをご存じでしょうか?
今回は、亡くなった親名義の実家に長く住み続けた場合、その実家が自分のものになるかを説明します。
遺産分割が終わってない実家は誰のもの?
亡くなった人が所有していた財産は、遺産分割が終わるまでは相続人全員のもの。
相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの財産を相続するかを決めた上で、名義変更を行わなければなりません。
しかし、遺産分割協議や名義変更の手続きは面倒なので、放置してしまうことはよくあります。
ここで、Aさん(兄)とBさん(弟)という兄弟がいたと仮定しましょう。
25年前に父親が亡くなったとき、相続人はAさんとBさんの2人でした。
父親の相続財産としては実家の土地・建物がありましたが、遺産分割協議を行わず、父親名義のまま放置しています。
兄のAさんは独身で、父親の生前から実家で同居。現在まで引き続き実家で暮らしています。
一方、弟のBさんは結婚して持家があります。Aさんが実家に住み続けていても、Bさんは特に困ることはありません。実家の固定資産税も、Aさん1人が払っていました。
このケースでは、実家はAさんだけのものではありません。名義は父親ですが、実質的にはAさんとBさんが持分2分の1ずつ共有している状態です。つまりAさんは、Bさんの持分も自分が使っていることになります。
あるときAさんは、「他人のものでも一定期間持ち続けていると自分のものにできる」という民法上のルールを知りました。そして、Bさんの持分を自分のものにできないかと考えたのです。
他人のものを使い続けると自分のものに!時効取得とは?
民法には「取得時効」の規定があります。
具体的な条文をみてみましょう。
162条1項に「20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する」とあります。
これは、「他人のものでも所有の意思をもって20年間持ち続けると自分のものにできる」ということです。
さらに、162条2項には、「10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する」とあります。
これは、「最初から他人のものと知らなければ、10年で自分のものにできる」という意味です。
つまり、他人のものと知らなかったら10年、他人のものと知っていても20年で自分のものにできるのが、時効取得のルールです。
時効取得の要件とは?
時効取得には要件があり、すべての要件をみたさない限り認められません。
「所有の意思をもって」「平穏かつ公然に」「20年(または10年)以上」占有を続けている必要があります。
所有の意思をもった占有とは、自分のものと思って所持することです。
賃貸など他人のものを借りて占有している場合には所有の意思をもっていることにはなりません。平穏かつ公然の占有とは、本来の所有者と争うことなく所持している状態です。
上記のケースに当てはめてみると、Aさんは相続した実家に20年以上平穏かつ公然に住んでいますが、所有の意思をもっているとは言えません。
AさんはBさんというもう1人の相続人がいることを認識しています。
遺産分割が終わるまで、実家は相続人全員のものであることも客観的に明らかな事実。よって、Aさんは実家を時効取得できません。
相続した実家を時効取得できるケースはある?
Aさんのケースのように、相続した家に住み続けても、時効取得は成立しないのが通常です。
たとえ固定資産税を自分が負担していたとしても、それだけで自分のものにはなりません。では、相続した実家の時効取得は不可能なのでしょうか?
例外的に、相続した実家を時効取得できるケースはあります。たとえば、実家が祖父から父に贈与されたと思い込んでおり、その父の唯一の相続人として実家に住み続けている人は、実家は自分のものと信じているはずです。
このような場合には、所有の意思をもっていると言えるので、時効取得できる可能性があります。
いずれにしろ、自分が唯一の権利者と信じて疑わないような客観的な事情がないと、時効取得は困難です。やはり他人のものを自分のものにするのは、簡単ではないのです。
なお、実家を相続した場合、通常は相続税の課税対象になります。
一方、時効取得した場合には一時所得として所得税の課税対象になります。相続税は相続財産が基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)以下ならかかりませんが、一時所得は50万円を超えると税金が発生するため注意しておきましょう。
まとめ
相続した実家を時効取得するのは難しいですが、状況によっては時効取得が認められるケースもあります。
なお、相続時の不動産の名義変更(相続登記)は2024年(令和6年)から義務化されます。相続した実家は、速やかに名義変更しておきましょう。
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