土地・不動産 2019.01.21
夫の死亡による不動産相続で留意したいこと
夫が死亡して相続が開始すると、死亡届の提出や葬儀の手配で妻は大忙しです。やっと一息ついても、今度は夫の遺言書を探したり、相続人を探す作業に着手したりしなくてはなりません。
ところで、夫が死亡した後に妻が不動産を相続することはよくありますが、いくつかの点に留意すべきです。この記事では、死亡した夫の不動産を妻が相続する時に知っておきたいことに加え、配偶者間での不動産相続について今度施行される改正民法についても触れたいと思います。
妻自身の死亡後の「二次相続」に配慮する
相続で、死亡した人の夫や妻を税制面で優遇するための制度に「配偶者の税額軽減」というものがあるのをご存知でしょうか。一定の金額内の相続財産であれば、死亡した人の夫や妻には相続税を課さないという制度です。
一定の金額とは、以下のいずれか高額な方のことを言います。
・夫や妻の法定相続分
・1億6,000万円
例えば、死亡した夫が遺した相続財産の総額4億円を、妻と子供ひとりが相続するとしましょう。法定相続分に従って4億円を分けると、妻が2億円、子供も2億円を相続することになります。
妻が相続する2億円は1億6,000万円より高額ですが、法定相続分の範囲内です。ですから、妻には相続税がかからないことになります。
とても魅力的な制度に思えますが、少し慎重にならなければなりません。その妻が死亡した後には、子供が妻の相続を行うことになるからです。夫が死亡した時の相続を「一次相続」と考えると、妻が死亡した時の相続は「二次相続」と言えます。
二次相続では、配偶者はすでに死亡していて不在のため、配偶者の税額軽減制度は利用できません。
先ほどの例で、妻が夫から相続した2億円がほとんど使われないうちに妻が死亡したとすれば、子供は多額の相続税を支払わなければならないのです。
死亡した夫の不動産を妻が相続することで、妻の死亡による二次相続で子供の相続財産が高くなりすぎる心配があるなら、一次相続の時点で不動産は子供に相続させるか、不動産以外の財産は子供に多めに相続させるなどの工夫が必要でしょう。
夫側の家族や子供と、不動産を巡る争いになる可能性も
相続人となった妻にとって、死亡した夫と二人三脚で築いてきた不動産だとしても、他の人が妻の不動産相続に異議を唱える可能性があります。
例えば、夫の親や夫の兄弟が、妻が不動産の所有権を持つことを良く思わないこともあるでしょう。子供が不動産を欲しがることもあり得ます。
妻の立場としては、死亡した夫との思い出が詰まっている住み慣れた家に住み続けたいと思うのが当然です。様々な事情で、転居するわけにはいかないこともあるでしょう。
妻が他の誰にも邪魔されずに不動産を相続するためには、夫が生前に、妻に不動産を相続させる旨を遺言書に記載しておく必要があります。まだ遺言書を作成していないのなら、有効な形式の遺言書を早急に作成しましょう。
すでに夫が死亡してしまったが遺言書がない、または遺言書に不動産の相続については記載がない場合や、不動産の相続を誰かに妨害される恐れがあるなら、相続問題の実績を豊富に持つ弁護士に依頼することをおすすめします。
夫や妻の「配偶者居住権」に留意する
配偶者居住権とは、夫が死亡した妻(または妻が死亡した夫)が、相続開始時に住んでいた自宅などの不動産に住み続けることができる権利のことです。
2018年7月に改正民法として成立し、2020年7月以降の相続から適用される予定の新しい法律となっています。
現行法では、死亡した人の自宅も相続財産の一部として、相続人の間で遺産分割されることになっていました。しかし、それでは、死亡した人の夫や妻の住む家が無くなってしまい、困窮してしまうかもしれません。
改正後は、死亡した人の夫や妻は自分の死亡時までそのまま自宅に住み続けることができるようになる上、自宅以外の相続財産についても通常の相続と同じように取得できます。
自宅がいくらの評価額であろうと関係なく相続できるため、老後の生活を安定させることができるでしょう。
現行法では、死亡した人が夫や妻に自宅を生前贈与している場合「自宅は相続財産に含まない」などの遺言を残していなければ、自動的に相続財産に加えられてしまうことになっていました。
改正後は、正式に婚姻して20年以上の夫婦に限り、夫や妻が生前贈与で取得済みの自宅については、相続財産から除外できることになります。
相続関係の法規が根本的に変化するのは1980年以来のことで、約40年ぶりとなります。過去に相続を経験したことがあっても、今後の相続では改正民法に従うことになりますので、留意しておきましょう。
まとめ
死亡した夫の不動産を妻が相続する際には、自分の相続のことまで見通した上での計画が必要です。夫の家族が存命なら、妨害も予期しておきましょう。
今後相続を控えている夫の立場なら、配偶者居住権のことを念頭に置きつつも、妻が不動産を相続できるよう、遺言書を遺すようにして下さい。
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