相続税 2020.10.09
売るべき、売らざるべき?大家さんの相続対策
日本の高齢化が進む中、相続に関するご相談が増えています。中でも対策が急務といえるのが、アパートやマンションの大家さんです。
大家さんの中には、今のうちに物件を売った方がいいのか、それとも残して次の代に引き継いだ方がいいのか悩んでいる方がたくさんいるようです。
そこで本記事では、相続対策において物件は売るべきか、売らざるべきかについて解説したいと思います。
ズバリ、売るべき?売らざるべき?
どちらの方がいいかについては、何を相続対策したいかによって大きく異なってきます。
というのも、相続対策というのは大きく分けて次の2つの側面があり、どちらを優先するかによって売った方がいい、売らない方がいい、の判断が変わってくるからです。
相続税の節税対策
相続する財産に対して課税される相続税を節税することを第一に考えた場合、アパートやマンションなどの収益物件については、できるだけ売らない方が有利になります。
なぜなら、相続税の計算上、課税価額を低く抑えられるからです。
例えば時価1億円のアパートを保有していたとします。
相続対策で売却した場合、現預金1億円になり相続発生時には1億円が相続税の計算における基礎になります。
対して、アパートを保有したまま亡くなった場合、時価1億円のアパートは相続税の課税価額は時価ではなく評価額になるため、評価額は次のように低くなるのです。
建物:時価の70%程度
土地:時価の60%程度
このように、相続税の課税対象となる価額はアパートのまま相続したほうが大幅に抑えられるのです。
これは自宅の場合もある程度同じことが言え、一定の要件が揃えば小規模宅地等の特例という大幅な節税効果がある特例を適用できるので、下手に売って現金に代えてしまうと相続税はアップすることになります。
争いごとを防止する節税対策
相続対策において節税はとても重要なテーマですが、節税だけにとらわれているともう一つの重要なテーマを見落としてしまうことになります。
それは遺産分割対策です。
相続は多額の資産を受け取る手続きですから、これまで仲の良かった親族同士で争うことはよくあります。特に大家さんのように不動産を所有している方の相続は要注意です。
というのも、不動産は基本的に物理的に分割して相続することが極めて難しいため、選択肢としては単独で誰かが相続するか、相続人同士で共有するかの2択になります。
ただ、単独相続するとなれば当然ほかの相続人が反対することになりますし、共有についてもその場で話がまとまったとしても、相続した後の運用面において意見がまとまらないという問題があります。
これらの問題をまとめて解決する一番簡単な方法が、不動産の売却です。
不動産を売却して現金化しておくことで、相続発生時には法定相続分に従って簡単にわけられるため、遺産分割でもめることが少なくなります。
実際、大家さんの中には子供たちがもめることを恐れて、相続税が高くなる可能性を認識しつつも、生前に不動産を売却して現金化するケースも少なくありません。
収益物件を売るタイミング
収益物件を売却するタイミングは、相続以外の要素も加味する必要があります。
例えば、所得税です。
木造アパートの場合、新築なら22年かけて減価償却するのである程度時間がありますが、築22年以上経過した中古アパートを購入している場合は、たったの4年で減価償却が終わってしまいます。
つまり、4年間はかなり高額な減価償却費を計上できるので大きな節税効果をもたらしますが、5年目以降は減価償却費がゼロになってしまうので一気に利益が出て高額な所得税が発生してしまう恐れがあるということなのです。
実際、こういった税金の仕組みをよく理解しないままアパート経営をしている大家さんはたくさんいます。
古い中古物件を保有している場合は、減価償却における未償却残高を確認しつつ、ベストな売却時期について早めから検討していくことが大切です。
オリンピックと売却
不動産の売却時期の判断で1つのポイントになりそうなのが、東京オリンピックです。2013年に東京オリンピック開催が決まって以降、不動産価格は上昇傾向にありますが、2021年にオリンピックが終わる前後で価格の転換期が来る可能性が高いと考えられます。
現在相続対策を検討している方は、こうした社会全体の情勢についても考慮するとよいでしょう。
まとめ
不動産の相続は節税を優先するか、トラブル防止を優先するかによってとるべき選択肢は異なります。
大家さんの相続対策は一筋縄ではいかないため、できる限り専門家である税理士に相談するのが得策です。
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