相続放棄 2017.12.17
相続放棄で委任状が必要となるケース
多額の借金など負の遺産を相続したくないと思う場合、すべての相続権を放棄する「相続放棄」を決意するかもしれません。
相続放棄やそれにまつわる手続きには、様々な申請や委任状などの書類が必要になります。また相続放棄に関連して、委任状が必要になる場面やケースも存在します。
この記事では、相続放棄の申請現場で委任状が必要になるケースをご紹介します。
相続放棄とは
相続放棄とは、被相続人(亡くなった人)の財産、借金をすべて受け継がないことを指します。被相続人の財産の金額や借金の金額には関係なく、すべての受け取りを放棄するものです。相続放棄した相続人は、初めから相続人でないものとされます。
なお、被相続人(亡くなった人)が残した財産について、相続人が取ることができる選択は相続放棄の他に以下の2つの選択肢が存在します。
単純相続
一つ目は、被相続人のすべての財産、借金を引き継ぐ方法で、これを「単純相続」と言います。この場合は、特に手続きを行う必要はありません。
限定承認
二つ目は、受け継いだ財産の範囲内で被相続人の借金を負う「限定承認」です。例えば財産よりも負債が多い場合には、その不足分を支払う義務がなく、逆に財産で借金を精算した後に財産が残れば、それを引き継ぐことができるというものです。
以上の方法の中で、限定承認と相続放棄は、相続の開始があったことを知って日から3ヶ月以内に、家庭裁判所で手続きをする必要があります。もしこの期間を過ぎれば、単純承認とみなされてしまい、被相続人の全ての財産と借金を相続しなければなりません。
遺産分割協議を行う場合は相続放棄の有無を確認する「相続放棄・限定承認の申述照会」で委任状が必要
相続が開始されて遺産分割協議を行う際、相続人が相続放棄または限定承認をしたのかどうかが分からないと、なかなか遺産分割手続きが進みません。そのような場合に、他の相続人が相続放棄したかどうかを家庭裁判所で「相続放棄・限定承認の申述照会」申請を行うことで確かめることができます。
例えば、被相続人の兄弟姉妹など相続順位の低い人の場合、現時点で自分に相続権が発生しているか分からないが、被相続人に多額の借金などマイナスの財産が多いため、自分に相続権があるなら速やかに相続放棄したいと考えることもあります。
しかし、先順位である被相続人の子供と連絡が取れず、相続放棄の申し立てができるのかどうか分からない場合があります。このような場合にも、相続放棄・限定承認の申述照会を行うことで、先順位の相続人が相続放棄したかどうかを知ることができるのです。
相続人がみな相続放棄し、相続人が誰もいなくなってしまった場合には相続財産管理人の選任の申し立てが必要になるため、相続放棄の有無を把握しておくことはその後の手続きに必要不可欠となるのです。また、相続放棄の有無を確認する手続きに委任状も関係してきます。
相続放棄・限定承認の申述照会の申請方法と、委任状が必要な場合について
相続放棄や限定承認の照会にあたっては、次のような流れで行い、場合によっては相続放棄や限定承認の照会に委任状が必要となります。
照会の申請ができる人
相続放棄の照会は誰でもできる訳ではなく、次の人に限定されています。
・相続人
・被相続人に対する利害関係人(債権者など)
これらの人が自分で申請する場合には、相続放棄の照会の委任状は不要となります。
照会時の添付書類
ここからは、相続放棄の申述の有無を確認する際に必要となるおもな書類とその内容をご紹介します。場合によっては、これら以外の書類が必要になることもあります。
相続人が申請する場合
1.被相続人の住民票の除票(本籍地が表示されているもの)
被相続人の死亡の事実と最後の住所地を確認するための書類です。
2.照会者と被相続人の発行から3か月以内の戸籍謄本(照会者と被相続人との関係がわかる戸籍謄本)
戸籍謄本だけでは照会者と被相続人との関係が分からない場合には,その関係がわかる戸籍謄本および除籍謄本を別途用意することが必要になります。
3.照会者の住民票(本籍地が表示されているもの)
照会者の住所地を確認するために必要となる書類です。
4.委任状(代理人に委任する場合)
相続放棄・限定承認の申述照会申請を代理人に委任する場合には、委任状が必要です。相続放棄・限定承認の申述照会申請において委任状を受け取って代理人になれるのは、弁護士だけです。そのため、その他の人について委任状は使いません。
5.返信用封筒と返信用切手
6.相続関係図
これは手書きでも可とされているもので、被相続人と相続人との関係が分かるよう図を作成します。
被相続人に対する利害関係人(債権者等)が照会する場合
1.被相続人の住民票の除票(本籍地が表示されているもの)
2.照会者の資格を証明する書類
個人の場合・・・照会者(個人)の住民票
法人の場合・・・商業登記簿謄本または資格証明書
3.利害関係の存在を証明する書面(コピー)
被相続人との利害関係を照明する資料として、金銭消費貸借契約書、訴状、競売申立書、競売開始決定、債務名義等の各写し、担保権が記載された不動産登記簿謄本、その他債権の存在を証する書面などを用意する必要があります。
これらの書面上の住所地と、被相続人の住民票の除票の住所地とが異なっている場合は、被相続人の戸籍の附票などを別途用意し、住所が変更された事実を証明する必要があります。
4.委任状(代理人に委任する場合のみ)
相続放棄・限定承認の申述照会申請において委任状を受け取って代理人となれるのは弁護士だけですが、照会者が法人の場合には申請会社の社員を代理人とすることができます。この場合には、代表者印のある社員証明書を提出する必要があります。
5.返信用封筒と返信用切手
6.相続関係図
相続放棄に関連して委任状が必要となるケースは、相続放棄・限定承認の申述照会を行う場合です。相続人、もしくは被相続人に対する利害関係人のみが照会申請を行うことができますが、代理人である弁護士が申請する場合には委任状が必要になります。
委任状の書き方
今まで説明した「相続放棄・限定承認の申述照会の申請」に限らず、相続には、手続きを第三者に依頼する場合が少なくありません。そこで、ここからは、「委任状」の書き方について、詳しくご説明いたします。
まず、「委任状」とは何かということですが、端的に言えば「ある人に対して、ある事柄を自分以外の人に委任したということを記載した文書」のことです。実際には、委任関係を示すというよりは、その人に代理権を与えたことを他人に証明するために用いる文書というとらえ方が一般的です。
通常 「委任状」には、以下の事柄を記載する必要があります。
①委任者(委任する人)の住所・氏名(印鑑の押印)
②受任者(委任された人)の住所・氏名
③請求する証明書の種類・必要枚数、あるいは委任する内容の具体的な事柄
④委任状の作成日
①「委任者(委任する人)の住所・氏名(印鑑の押印)」についてですが、通常 印鑑は「認印」です構いませんが、重要な事柄であったり、委任状を受け取る機関などが実印の押印を求めたりする場合には、委任者の実印(会社であれば代表者印)を押印し、「印鑑証明書」を添付しなければなりません。
②「受任者(委任された人)の住所・氏名」についてですが、弁護士などの専門職であれば、名前の前に「弁護士」などの肩書を添えます。また、弁護士、司法書士、行政書士などは、それぞれに「登録番号」を持っていますので、できれば氏名の下に「登録番号 ○○…」と追記しておきます。
③「請求する証明書の種類・必要枚数、あるいは委任する内容の具体的な事柄」は、「委任状」の最も重要な部分です。この部分は「代理権の範囲」とも言われ、委任者が受任者にどのような権限を与えたかを示すものです。ですから、できるだけ具体的に記載しておかなければなりません。もし、この「代理権の範囲」が曖昧に記載されていると、委任の範囲を巡って、後で委任者と受任者の間でトラブルが発生する可能性が出てきます。
一部では、「○○に関する全ての事項について委任する」と記載される場合があります。これは具体的な委任の範囲が明確に記載されていないため、いわゆる「白紙委任状」と言われます。しかし、この「白紙委任状」を委任者が作成してしまうと、ほぼ全てのことについて受任者に任せてしまうことになりますから、受任者の意のままになってしまいます。
もし受任者が悪意を持って、委任者に成り代わり、好き勝手なことをしても、委任者が後で責任を追及することは難しくなります。ですから、「代理権の範囲」はできるだけ、個別具体的に記載することが重要です。
④の委任状の作成日については、委任状を実際に作成した日を記載します。
なお、委任状に「捨て印」を押す委任者が少なくありません。確かに、委任状に間違いがあった場合に、その都度 委任者に訂正印をもらいに行く手間を省くことができ、とても便利です。しかし、「捨て印」があることで、受任者が悪意をもって「代理権の範囲」を追加・修正する可能性がゼロではありません。できれば、「捨て印」の押印はしないようにしましょう。
委任状はプロに任せよう
委任状については弁護士に相続放棄を依頼すれば、必要となる委任状についても代わりに作成してもらえます。よって、相続人は委任状に署名捺印するだけです。
委任状を作成したことがない場合は、弁護士に委任状作成など含めトータルでサポートしてもらうと良いでしょう。
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