相続放棄 2018.04.06

相続放棄できなくなる!「単純承認」とは?

マイナスの財産を受け継ぎたくない場合、相続放棄して相続権を放棄するという方法があります。 しかし単純承認と見なされると相続放棄はできず、マイナスの財産を相続しなければならなくなります。
単純承認と見なされてしまう事由はいくつかあり、知らないでいるとうっかり該当する行為をしてしまい、相続放棄できなくなる可能性があります。ここでは、相続放棄できなくなる単純承認と、その事由について解説します。

記事ライター:棚田行政書士

相続することを認める「単純承認」

単純承認とは、プラスの財産もマイナスの財産もすべてを無条件で受け継ぐことを認めることです。民法には「法定単純承認」という定めがあり、法定単純承認事由に該当する行為をした人については、相続放棄を認めず単純承認したものと見なすとしています。

民法第921条「法定単純承認」
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

1.相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。(被相続人の財産を処分した場合)

2. 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続放棄をしなかったとき。(相続に関する手続きを何もしなかった場合)

3. 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。(被相続人の財産を隠匿していた場合)

 

単純承認と見なされてしまうケース

前記の民法第921条の内容に基づいて、単純承認と見なされてしまい、相続放棄ができなくなる次の3つのケースについて詳しく解説しましょう。

1.相続に関する手続きを何もしなかった場合
2.被相続人の財産を処分した場合
3.被相続人の財産を隠匿していた場合

1.相続に関する手続きを何もしなかった場合

相続放棄したい場合は相続開始から3カ月以内に手続きしなければならないことや、相続放棄や単純承認は相続人が選択できるということも、一般に認識されていない場合があります。

相続には手続きが必要なことを知らなかったとしても、相続放棄手続きも何もしないで3カ月が経過してしまえば、自動的に単純承認したものと見なされます。

過去の判例では、単純承認したものの相続財産はないと誤解していた、または相続放棄の理由となる債務の存在を知るすべがなかったと認められる相続人に関しては、相続財産の存在を認識した時を起点として3カ月の熟慮期間が認められたため、単純承認後の相続放棄が可能になったケースもあります。

しかし、これはあくまで例外的なケースです。原則として、単純承認してからの相続放棄が認められる可能性は非常に低いと言えるでしょう。

2.被相続人の財産を処分した場合

相続放棄の前後に被相続人の財産を処分した場合も、相続放棄が認められず、単純承認となる可能性があります。ここで言う財産の処分には、形見分けは含まれていません。

明らかに金銭的価値の高い貴金属や骨董などは別ですが、着古した衣類や使用済みの食器、使い古した家具や家電など財産としての価値がほとんどないと言える物を少しもらうくらいなら、相続放棄には影響しないでしょう。

ただしあまりに大量にならないよう注意すべきです。

燃えるゴミなど、誰が見てもゴミ以外の何でもないものを捨てることも問題ありません。

財産の処分には、文字通り財産を捨てたり売ったりすることや、被相続人の権利を行使することも含まれています。権利の行使が財産の処分にあたるかについては、しばしば裁判で争われています。

古い判例ですが昭和37年には、相続放棄の前に被相続人が持っていた債権を行使して取り立てを行い、収益を得ていた相続人に対し、その行為は相続財産の処分に該当するとし、相続放棄を認めず単純承認とみなしたケースがあります。

平成の判例では、被相続人が持っていた株主権を行使したり、被相続人が所有していた不動産の賃料の振込先を自分の口座に変更したりするなどした行為も相続財産の処分に該当するため、相続放棄は認めず単純承認と見なしたケースもありました。

3.被相続人の財産を隠匿していた場合

相続放棄した後に財産を隠していて、それを私的に用いていた場合は、単純承認したものとみなされます。

ただし921条第3項にある通り、相続放棄によって、次に相続人となった人が単純承認をしていれば、隠匿していた人は単純承認には該当しません。

 

まとめ

マイナスの財産が多い場合は、期限を超過して単純承認と見なされないよう、早めに相続放棄の手続きをする必要があります。

相続放棄したいけれど財産を処分してしまったなどの場合は、弁護士や司法書士などの専門家に一度相談してみましょう。財産の処分には該当しない例外的ケースもあり、相続放棄ができる可能性も残っているからです。

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