相続放棄 2017.10.04

相続放棄とはいったいどんなもの?相続放棄の基礎知識と手続きの流れについて

「夫が他界したけれど、特に財産がなく借金だけが残っている・・・」
そんな場合でも相続は必ずしなければならないのでしょうか?
ここでは相続放棄とはなにか、相続放棄の手続き、相続放棄の利点を簡単に紹介します。

記事ライター:今井弁護士事務所

相続放棄とは

民法896条には、「相続人は、相続開始のときから、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」(これを「包括承継」といいます)とあります。これはつまり、例えば夫が死亡して妻が相続人となるとき、夫に銀行預金や不動産などのプラスの財産があれば、妻がそれらを受け継ぐことができる反面、夫がした買い物の未払い代金や借金などのマイナスの財産についても、妻が受け継いで負担するということです。

しかし妻は、この包括承継の効果を確定させずに、プラス財産とマイナス財産を受け継ぐ権利をまとめて放棄することができます。これが相続放棄という制度です。言い換えると、相続人の権利も義務も一切受け継がない、ということになります。

 

相続放棄の手続き

相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に、家庭裁判所に対する放棄の申述をすることで行うことができます。

ここでいう家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所になります。

「申述」とは具体的には、申述書に、被相続人の住民票や申述人の戸籍謄本、被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本などの必要書類を添付して提出することをいいます。

必要書類の詳細は裁判所HPで確認できます。

相続放棄にあたっては、相続財産の調査をすることができます。

しかし財産目録の作成は不要です。

 

限定承認に比した相続放棄のメリット—こんなときに相続放棄しよう

相続放棄と似た制度に限定承認があります。

限定承認とは、相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ選択肢です。

例えば、

ケースA

「夫が死亡して銀行預金1000万円だけが遺ったが、夫が借金をしていたことも分かっている。

しかし借金の額がいくらだったのか、すぐには全然わからない」 こんなときには、限定承認しておくのが安心かもしれません。借金の返済額が1000万円未満なら受け継ぐ財産はプラスになります。そして、もし借金が1000万円を超えたとしても、相続人は相続によって得た財産である1000万円分だけ返済すればいいのですから、損はしないのです。

こうして見てみると、限定承認には特にデメリットがなく、なんでもかんでも限定承認すればいいではないか?相続放棄という制度は不要では?と思われるでしょう。

しかし限定承認にはまず、手続きが煩雑であるというデメリットがあります。裏を返すと、相続放棄の方が手続きが楽なのです。 ここでは詳述しませんが、限定承認する場合、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に相続財産の目録を作成しなければなりません。また、限定承認をした者は、5日以内に相続債権者(上記の例でいうと夫に金を貸した人)等に公告をするなど、民法のルールに則って債務を弁済しなければなりません。この手続きには、場合によってはかなりの時間・労力・費用が必要になってしまいます。一方、上述のように相続放棄にあたっては財産目録の作成すら不要です。

そうすると、

ケースB

「死亡した夫の借金額が、プラス財産の額を上回ることがはっきりしている」 というような場合はもちろん、上記のような煩雑な手続きを踏んで限定承認する意味は乏しいわけで、相続放棄した方がいいことになります。

そればかりか、

ケースC

「死亡した夫の遺した財産は、市場価値がよくわからない美術品が多数。借金は1000万円ある。」 という場合も、相続放棄も視野に検討する価値があります。たしかに、もしかすると遺産に高価な美術品が含まれているかもしれず、価値のわからない今のうちは限定承認しておいて、美術品を鑑定に出すという手もありえるでしょう。

しかし1000万円を上回るような高価な品が含まれている可能性がとても低いとなれば、上記のような煩雑な手続きを避けて相続放棄してしまうのも十分ありうる選択と言えるのです。 また限定承認は、相続人が複数いる場合には、その全員が共同でしなければならないというデメリットもあります。裏返せば、相続放棄は独りでもできるのです。

ケースD

「夫が死亡しプラス財産を上回る借金が残ったが、妻は借金先に恩義を感じておりきちんと返済したいと言ってきかない。一方、子は負担を負いたくないと思っている。」 このような場合は、妻が反対する以上、限定承認はできません。子の希望を叶えるには、子が相続放棄をすることになります。

 

■終わりに

以上、相続放棄とその手続き・利点を簡単にみてきました。被相続人にマイナス財産がある場合に、限定承認と相続放棄のいずれの手続きを選択するかが大きな悩みどころになるといえそうです。 また上記のような金銭的損得の問題ではなく、被相続人に対する感情的理由から相続放棄が選択されることも考えられます。

最後に、相続放棄が行われた場合には代襲相続が起りませんので、子がいる場合などには注意が必要です。

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