相続放棄 2017.10.30
遺産を相続放棄するときの必要書類と手続きの流れ
家族が亡くなり遺産相続が発生したけれど、相続放棄をしたいこともあると思います。遺産の相続放棄をする場合には、必要書類を揃えたうえで、家庭裁判所で手続きをしなければなりません。ここでは、遺産を相続放棄する場合の必要書類や手続きの流れについて説明します。
遺産の相続放棄はどういう場合にする?
・相続には3つの選択肢がある
遺産相続では不動産や現金・預金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も承継するのが原則になります。被相続人が財産よりも借金を多く残しているような場合、相続人が借金の負担を引き継ぐことになるのは、相続人にとって酷なことがあります。
こうしたことから、相続の際には、次の3つの選択肢が用意されています。
(1) 単純承認
原則的な相続方法で、プラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継ぐ方法
(2) 限定承認
プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ方法
(3) 相続放棄
プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がない方法
・借金がある場合には相続放棄を検討
遺産相続では、何も手続きしなければ、単純承認をしたことになります。被相続人が多額の借金を残しているような場合、借金を引き継がないためには、限定承認か相続放棄を選択して手続きしなければなりません。限定承認及び相続放棄の手続きは、相続開始から3ヶ月以内にしなければならないことになっています。
限定承認は、相続人全員で手続きしなければならないことや手続きに時間や手間がかかることから、あまり利用されていないのが現状です。そのため、借金を引き継ぎたくない場合には、通常は相続放棄を検討することになります。
遺産の相続放棄の必要書類
遺産相続の際、相続放棄の申述を行う場合には、定められた書類を用意して家庭裁判所に提出する必要があります。遺産の相続放棄の必要書類は、申述人(相続放棄をする人)の地位によって異なりますが、どの場合でも以下の三つの書類が必要となります。
・相続放棄申述書
相続放棄の申述は、相続放棄申述書を提出して行います。相続放棄申述書の書式は、裁判所のホームページからダウンロードできるほか、最寄りの家庭裁判所に問い合わせて入手することも可能です。
・被相続人の住民票除票または戸籍附票
被相続人の最後の住所地を確認するために、住民票が必要です。亡くなった人の住民票は、除票として役所で請求できます。なお、被相続人の戸籍附票にも最後の住所が記載されていますから、戸籍附票を取り寄せて提出することも可能です。
・申述人の戸籍謄本(除籍・原戸籍謄本含む)
被相続人の最後の戸籍謄本、相続放棄を申述する人の現在の戸籍謄本のほか、相続関係がわかる戸籍・除籍・原戸籍謄本を揃えて提出する必要があります。
それでは申述人別に、上記の他に必要な書類を見ていきましょう。
申述人が被相続人の配偶者である場合
・被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
通常、被相続人と配偶者は同じ戸籍に載っているので、その場合は同じものを2通用意する必要はなく、1通で問題ありません。
申述人が被相続人の子である場合
・被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
子が結婚していないなど、被相続人と子が同じ戸籍に載っている場合、同じものを2通用意する必要はなく、1通で問題ありません。
しかし、子が結婚して新たに戸籍が作成された場合には、被相続人の戸籍謄本と子の戸籍謄本、両方が必要となります。
申述人が被相続人の孫である場合
・被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
・被代襲者の死亡の記載かある戸籍謄本
被相続人の子が亡くなっている場合、被相続人の孫が相続人になります。
この時、亡くなっている本来の相続人を被代襲者といい、申述者が孫の場合は、被代襲者、つまり被相続人の子の死亡の記載がある戸籍謄本が必要なので注意しましょう。
申述人が被相続人の父母である場合
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
・被相続人の配偶者または子の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
第二順位である被相続人の父母が相続人になる可能性があるのは、第一順位である相続人が一人もいない場合です。
よって、被相続人の配偶者または子の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本が必要となります。
申述人が被相続人の祖父母である場合
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
・被相続人の配偶者または子の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
・被相続人の親(父・母)の死亡の記載がある戸籍謄本
被相続人の父母も亡くなっている場合は、被相続人の祖父母が相続人となるため、被相続人の親(父・母)の死亡の記載がある戸籍謄本も必要です。
申述人が被相続人の兄弟姉妹である場合
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
・被相続人の配偶者または子の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
・被相続人の親(父・母)の死亡の記載がある戸籍謄本
第三順位である被相続人の兄弟姉妹が相続人になる場合は、これら全ての書類が必要になります。
申述人が被相続人の甥・姪である場合
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
・被相続人の配偶者または子の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
・被相続人の親(父・母)の死亡の記載がある戸籍謄本
・被相続人の兄弟・姉妹の死亡の記載がある戸籍謄本
甥・姪が代襲相続することになる場合は、被相続人の兄弟・姉妹の死亡の記載がある戸籍謄本も必要となるので忘れずに準備しましょう。
遺産の相続放棄の手続きの流れ
・書類取り寄せから相続放棄の受理までの流れ
①必要書類の取り寄せ
遺産の相続放棄の書類提出ができる期間は短くなっていますから、遺産相続が開始したら、相続放棄に必要な書類を速やかに集めていかなければなりません。戸籍謄本等の収集に時間がかかりそうな場合には、行政書士、司法書士、弁護士等の遺産相続の専門家に依頼するのが安心です。
②相続放棄申述書の提出
相続放棄申述書は、戸籍謄本等の必要書類と一緒に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。
なお、800円の収入印紙及び裁判所との連絡用の郵便切手(※金額は各裁判所で異なる)も提出する必要があります。
提出方法ですが、家庭裁判所まで行って窓口に直接書類を提出する方法のほか、郵送で提出しても構いません。
ただし、窓口に持って行って提出した方が、必要書類に不備があった場合に指摘してもらえる可能性が高いでしょう。
また、裁判所によって必要書類が異なることもありますので、直接出向くにしろ、郵送にしろ、予め必要書類を問い合わせておいた方が確実です。
③照会書の受領・返送
家庭裁判所から郵送で照会書が届きますので、これに必要事項を記載して返送します。
④相続放棄申述受理通知書の受領
家庭裁判所で相続放棄申述が受理されると、相続放棄申述受理通知書が郵送で届きます。
・遺産の相続放棄をしたことを証明する書類とは?
遺産の相続放棄をしたら、被相続人の債権者に対して書類を提示することで、借金の支払いを免れることができます。裁判所から受け取った相続放棄申述受理通知書のコピーを渡せばOKという場合が多いですが、債権者によっては相続放棄申述受理証明書を要求してくることがあります。
相続放棄申述受理証明書は、相続放棄の申述が受理された後、裁判所に請求すれば発行してもらえます。手数料は1通につき150円となっており、必要な通数発行してもらうことができます。なお、郵送で請求する場合には、返信用の切手を同封する必要があります。
相続放棄をする際の注意点
相続放棄は3カ月以内に行わなければならない
相続放棄は、相続開始を知った日から3カ月以内に行わなければなりません。
被相続人が亡くなってから3ヵ月以内ではないので注意しましょう。
もし、相続開始を知った日から3カ月を経過し、その間に相続放棄を行わなかった場合は、単純承認したとみなされてしまいます。
相続放棄をすると、新たな相続人が出てくることになる
例えば、夫、妻、子の三人家族で夫が亡くなってしまった場合に、夫に多額の借金があり、借金が財産を上回ると知っていた妻と子が、相続放棄をしたとします。
すると、第二順位である夫の両親が相続人となり、借金を負うことになるのです。
ですから、相続放棄を行う際は、次の順位の相続人に、相続放棄をすることやその理由を説明しておくべきでしょう。
何の説明もなく相続人となり、借金まで相続することになれば、必ずトラブルになると言っても過言ではありません。
トラブルや争いを避けるためにも、相続放棄をした場合、次の順位の親族が相続人となることを知っておく必要があります。
生前に相続放棄の手続きをすることは出来ない
たとえ、被相続人との関係が良くなかったり、多額の借金を抱えていることを知っていたりして、「何があっても相続はしない!」と決めていても、被相続人が亡くなり、相続が開始するまでは相続放棄を行うことは出来ません。
相続放棄の申述は、家庭裁判所で行いますが、家庭裁判所は相続開始前の相続放棄には一切対応していないからです。
3ヶ月経過後の相続放棄が認められるケースもある
遺産相続の際、借金の存在に全く気付かず、相続放棄をしないまま3ヶ月の期間が過ぎ、その後債権者から書類が届いてはじめて借金の存在を知るケースもあります。このような場合、借金の存在を知ってから3ヶ月以内であれば相続放棄が認められることがあります。
遺産相続から3ヶ月経過後の相続放棄では、相続放棄申述書のほかに、事情説明書などの遺産相続放棄の書類提出が必要になります。そのため、専門家に相談して手続きするのがおすすめです。
まとめ
被相続人に多額の借金があり、あきらかに財産を上回っているような場合は、相続放棄を検討するのがよいでしょう。
しかし、相続放棄は、自己のために相続の開始があることを知ってから3カ月以内に行わなければ、単純承認をしたことになり、プラスの財産もマイナスの財産も相続してしまうため、期限には注意が必要です。
また、申述人の地位によって、相続放棄を行う際に必要な書類が異なりますので調べてから提出しましょう。
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