遺産相続・遺産分割 2017.12.12

遺産相続で借金の扱いはどうなる?

遺産相続では財産のほかに借金も引き継ぐことになりますから、亡くなった人が借金を残している場合には注意が必要です。ここでは、遺産相続での借金の扱い方や、遺産相続で借金の存在が発覚した場合の対処法について説明します。

記事ライター:ゆらこ行政書士

遺産相続では財産だけでなく借金も引き継ぐ

遺産相続では借金の支払義務を相続人が承継

遺産相続では、原則として法定相続人と呼ばれる親族が、亡くなった人の残した財産(相続財産)を引き継ぐことになります。この場合の相続財産には、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。つまり、遺産相続が発生したら、相続人は遺産相続において借金の支払義務を承継することになります。

遺産相続では借金は当然に分割される

遺産相続で複数の相続人がいる場合、全員で遺産分割協議を行って、相続財産の分割方法を決めます。ただし、遺産分割協議の対象となるのは、基本的にプラスの財産のみになります。借金などのマイナスの財産については、法定相続人は法定相続分で分割された債務を当然に承継することになります。

実際には、遺産分割協議において、特定の相続人が借金の支払義務を引き継ぐ旨を決めることもあると思います。しかし、相続人の間の遺産分割協議で債務について取り決めした内容を債権者に対して主張することはできません。債権者は原則どおり、各法定相続人に法定相続分に応じた支払いを請求することができます。

 

遺産相続で借金を承継したくない場合には

遺産相続では相続方法を選べる

亡くなった人が借金を残している場合、相続人が必ず借金の支払義務を引き継ぐとすれば、相続人にとって大きな負担になってしまいます。そこで、民法では相続方法の選択肢として、次の3つを用意しています。相続人は相続開始を知った時から3ヶ月の「熟慮期間」に、いずれの相続方法で相続するかを決める必要があります。

(1) 単純承認

プラスの財産もマイナスの財産も全部引き継ぐ方法です。単純承認を選択する場合には、特に手続きする必要はありません。

(2) 相続放棄

プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がない方法です。相続放棄を選択する場合には、熟慮期間中に家庭裁判所で相続放棄の申述をする必要があります。

(3) 限定承認

プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ方法です。限定承認を選択する場合には、熟慮期間中に家庭裁判所で限定承認の申述をする必要があります。

借金があるなら相続放棄か限定承認を検討

亡くなった人が借金を残している場合、借金が少額であれば単純承認をしても大きな問題はないかもしれません。しかし、借金が多額になると、相続で財産を受け取っても割に合わないことがあります。相続放棄か限定承認を選択すれば、少なくとも相続人が自分の財産から借金を返済する必要はなくなります。

相続放棄と限定承認には、それぞれメリット、デメリットがあります。遺産相続で借金がある場合、相続方法としてどちらを選ぶかは慎重に検討する必要があります。

相続放棄のメリットとデメリット

遺産相続で相続放棄を選べば、初めから相続人ではなかったものとみなされますから、借金の支払義務を引き継ぐこともありません。相続放棄は1人でできますから、手続きも比較的簡単です。

ただし、相続放棄すれば、財産も全く取得できなくなってしまいます。相続財産の中に自宅がある場合には、家を失ってしまうことにもなります。また、同順位の人が全員相続放棄をすれば、次順位の人に相続権が移ることになり、手続きに関わる人が増えてしまいます。

限定承認のメリットとデメリット

相続財産の中に自宅がある場合、限定承認を選べば、自宅を取得できる可能性があります。限定承認ではプラスの相続財産を金銭に換えて借金を返済することになりますが、相続人には先買権という権利があり、優先的に相続財産を買い取ることができるからです。

ただし、限定承認は相続人全員で手続きしなければなりません。相続人の中に1人でも単純承認する人がいれば、限定承認はできないことになってしまいます。また、限定承認には、相続財産の清算手続きに時間や手間がかかるというデメリットもあります。

 

遺産相続で借金がある場合にすべきこと

まずは相続財産の全容を把握する

遺産相続が起こった際、亡くなった人に借金があることがわかっても、それだけでは相続方法を決めることができません。相続方法を選択する前提として、相続財産調査を行い、遺産相続前に財産と借金がそれぞれどれだけあるのかを確定する必要があります。

相続財産調査がすぐに終わらない場合には

遺産相続で借金があるけれど、3ヶ月の熟慮期間中に相続財産調査が完了しそうにない場合には、熟慮期間を延長することができます。熟慮期間を延長する場合にも、相続開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所への申立てが必要です。

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