相続人・遺留分 2018.01.16

国際相続とは?相続人がアメリカ国籍だとどうなる?

相続が開始すると真っ先に行われるのが、相続人の調査です。被相続人の戸籍を生まれた時までさかのぼって調べ、家族が知らない非嫡出子などがいないかを調査します。

そんな時にアメリカ国籍を持つ相続人がいることが分かったなら、その人も相続人として遺産分割協議に加えなければなりません。

この記事では、相続人がアメリカ国籍の場合、どのように相続手続きを進めていったら良いのか、どんな書類を用意する必要があるのかなどを解説していきます。

記事ライター:棚田行政書士

いまや「国際相続」の事例も少なくない

国際相続とは

相続の際に、外国在住の相続人や外国籍の相続人がいる場合、あるいは日本と海外に相続財産がある場合を「国際相続」と言います。

国際結婚が珍しくなくなり、海外に資産を持つ人も少なくありませんので、国際相続は、決して他人事ではありません。

国際相続で適用される法律

まず国際相続で大切なことは、どの国の法律に基づいて相続手続きを行うのか、ということです。日本では、国際相続に関する準拠法を以下のように、定めています。なお、「準拠法」とは適用される法律のことです。

「法の適用に関する通則法」

 第36条 相続は、被相続人の本国法による。

 第37条 遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。

    2 遺言の取消しは、その当時における遺言者の本国法による。

まず、上記の第36条についてですが、被相続人、つまり亡くなった人が日本国籍の場合、日本の法律に基づいて相続の手続きを行うことになります。ですから、相続人の中に外国籍の人がいても、あるいは外国在住の日本国籍の相続人がいても、また被相続人の財産が外国にあっても、相続手続きは、日本の法律に基づくことになります。

もっと極端な例で説明すると、仮に日本国籍の人が国際結婚をして国籍を変えずに海外に居住し、相続人が全て外国籍であっても、相続の手続きは、日本の法律が適用されるということになるのです。

次に、上記の第37条についてですが、例えば、被相続人が遺言書を作成した時点では日本国籍で、その後外国籍に変えた場合、被相続人が亡くなった際には、遺言書は日本の法律に基づいて、手続きが行われることになります。

また、被相続人が海外に在住している際に、その国の法律に基づいて遺言書を作成した場合でも、被相続人が亡くなった際には、日本の法律に基づいて、相続の手続きが行われます。

さらに、遺言書の取り消しについても、その時点(取り消し時)の遺言者の本国法に基づいて、手続きが行われます。例えば、日本国籍の人が遺言書を作成し、その後外国籍に変わった後で、遺言書を自ら取り消した場合には、その外国の法律に則って、処理されるということになります。

 

国際相続が発生した場合の対処法

次に、実際に国際相続が発生した場合の対処法について、ご説明いたします。

まず、日本国籍の被相続人が外国に住んでいた場合ですが、最初に死亡届を日本の本籍地に提出する必要があります。具体的には、死亡したことを知った日から3ヶ月以内に、滞在国の在外公館(大使館、総領事館)または本籍地の市区町村役場に届け出なければなりません。

提出書類は、死亡届、現地医師の死亡診断書(あるいは現地警察が発行した死体検案書・死亡診断書・死亡証明書)、上記2文書の和訳文、届出者の印鑑です。

その後は、通常の相続手続きと同じで、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せ、法定相続人を確定させる必要があります。また、合わせて被相続人の財産をリストアップして、相続財産を確定させます。

そして、被相続人が遺言書を残していないかを確認し、遺言書がなければ法定相続人全員で相続財産の分割方法を検討し、誰がどの財産をどの割合で相続するかを決めます。決定したら、遺産分割協議書を作成し、法定相続人全員が署名し、実印を押印します。

次に相続人が外国に住んでいる場合ですが、その相続人が日本国内で住民登録していない場合には、「署名証明」と「在留証明(居住証明)」を取り寄せることになります。

「署名証明」とは、日本の「印鑑証明」に該当するもので、相続人が遺産分割協議書に署名する場合に、署名が本人のものであることを証明する役割があります。

「在留証明(在住証明)」とは、日本の「住民票」に該当するものです。もし相続人が日本国籍を持っている人であれば「在留証明」を取り寄せ、持っていなければ「居住証明」を取り寄せることになります。

以上の書類を取り寄せた後は、通常の相続手続きの流れになります。

 

【例】相続人がアメリカ国籍の場合はどうなる?

日本国籍とアメリカ国籍の両方を有している相続人、または日本国籍を失っており、アメリカ国籍のみとなっている相続人でも、日本人の場合と同様に相続することが可能です。

 

アメリカ国籍の相続人がいる場合でも、次のように通常通りの流れで相続は進んでいきます。

1.相続人の範囲を確定する

2.遺言書の有無を調査する

3.相続財産の調査を行う

4.相続するかしないかを、各相続人が決定する

5.遺産相続の分配について、相続人の間で協議する

6.遺産分割協議書を作成する

7.遺産分割協議書に従い、遺産を分配する

 

このように、アメリカ国籍の相続人を含めて相続の手続きは行われていきます。アメリカ国籍であることで異例の対応が必要になるポイントの多くは、必要書類についてでしょう。

アメリカ国籍の相続人が、いまだに日本国籍を有しているかどうかにもよりますが、アメリカ国籍の相続人は、日本国内で印鑑証明書を発行したり、戸籍を取得したりすることが出来ません。これらに代わる正式な公的書類を準備することになります。

また、アメリカ国籍の相続人が日本語に堪能でなく、日本語の理解に限界がある場合は、忠実に翻訳された遺産分割協議書などの書類を用意したり、通訳者を用意したりする必要も生じるでしょう。

 

アメリカ国籍の相続人の相続手続きに必要となる書類

では実際に、アメリカ国籍の相続人が日本での相続を行う場合に必要になる書類の一例をご紹介します。アメリカ国籍の相続人の個々の状況によっては、これよりも多くの書類が必要になる場合があります。

1.署名証明書(サイン証明書)

アメリカ国籍の相続人が日本国内に住所を持っていない場合、印鑑証明書を取得することはできません。しかし印鑑証明書は、遺産分割協議書に添付する書類としてどうしても必要なものです。

この場合、アメリカ国籍の相続人が提出する代替書類としては、署名証明書(サイン証明書)が有効です。

アメリカでは印鑑を使う文化がないため、印鑑証明書と同等の公的書類として署名証明書が使用できます。署名証明書は、アメリカの日本大使館や総領事館で取得できます。

なお、署名証明書は、アメリカ国籍と日本国籍を二重に有している場合のみ申請が可能です。

アメリカ国籍のみで日本国籍を失っている場合は、失効した日本国パスポートや戸籍謄本などを持参して「元日本人」であることを証明できれば、署名証明書を発行してもらえる場合があります。

2.在留証明書

日本で言うところの住民票のような役割を持つのが、在留証明書です。アメリカ国籍の相続人が、アメリカ国内のどこに住所を有しているか、あるいは有していたかを証明するものです。

発行条件は、アメリカ国籍の相続人が現地にすでに3ヶ月以上滞在しており、現在も居住していることです。基本的に、証明を必要とする本人が在外公館へ出向いて申請することが必要です。

在留証明書も、アメリカ国籍と日本国籍を二重に有している場合のみ申請できます。アメリカ国籍のみで日本国籍を失っている場合は、例外的措置として代替書類の「居住証明書」が発行される場合があります。

3.除籍謄本

日本国籍がなく、アメリカ国籍のみとなっている場合は、日本の戸籍上は「除籍」となっています。

そこで、アメリカ国籍になる前は確かに日本の戸籍を持っていたことを証明するために「除籍謄本」を取得します。除籍謄本は、最後の本籍地を置いていた日本の市区町村役場で取得します。

 

もともと日本国籍の人の相続は?

現在相続人がアメリカ国籍であっても、もともと日本国籍の人である場合、注意が必要です。

外国籍の相続人は、居住国の公証人が作成した「サイン証明書」と「宣誓供述書(本人が陳述した内容を公証人が認証し、公文書化した書類)」を取り寄せなければなりません。しかし、日本国籍を喪失した外国籍の相続人の場合は、「元日本人」であることを証明できれば、これらの証明書は不要となります。

それには、元日本人であることの証明や顔写真付きの身分証明書を取り寄せる必要があります。例えば、戸籍謄本や運転免許証、マイナンバーカード等です。

このような証明書類等があれば、「署名証明」や「居住証明」を在外公館で発給してもらうことができます。但し、全ての国で発給されるわけではありませんので、居住地の在外公館に相談してみる必要があります。

 

まとめ

アメリカ国籍を持つ相続人でも、日本人の相続人と同じように相続に加わることが可能です。

用意しなければならない書類はたくさんありますが、日本語がしっかり理解できる場合はそれほど煩雑な手続きとはならないでしょう。

なお、二重に国籍を持っていることで、書類の準備はとても楽になります。今後相続をする可能性があり、アメリカ国籍の取得を計画している子供がいる場合は、国籍を留保して二重国籍にしておくことを検討するのも良いかもしれません。

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