相続人・遺留分 2018.02.06
遺産相続における相続分の放棄手続きとは?
遺産相続の時、もらって嬉しいプラスの遺産よりも借金などのマイナス遺産の方が多いことが分かった場合、多くの人が遺産相続の放棄の手続きを行います。相続放棄手続きをすれば、法的にも弁済責任は免れます。
相続放棄と同じ意味だと誤解されやすいものに、「相続分の放棄」があります。相続分の放棄手続きをしたからもう借金を支払わなくていいと思ってしまう人もいますが、相続放棄手続きと相続分の放棄手続きは全く違うものなのです。
遺産相続における相続分の放棄手続きとは?
遺産相続における相続分の放棄手続きとは、自分の相続分を放棄し、被相続人の遺産を受け継がないという意思表示です。相続放棄手続きとは異なり、法的に設けられた正式な制度ではありません。
遺産相続が始まると、相続人の間では遺産分割協議がなされます。その際、自分は遺産相続をしないという意思表明をし、遺産分割協議書にそのことを書き込むなどの仕方で相続分の放棄手続きは行われます。
ただし、遺産分割調停の際に相続分の放棄手続きを行う場合は、「相続分放棄届出書兼相続分放棄書」を自分の印鑑登録証明書の原本とともに家庭裁判所へ提出する必要が出てきます。
このように相続分の放棄手続きをすれば、遺産相続の当事者としての立場は無くなり、以後、遺産相続には関わらなくてよくなります。
相続分放棄書を提出した相続人には「即時抗告権」という、排除決定への不服申し立ての権利が与えられます。一刻も早く遺産相続の当事者から外れたいという場合には、この即時抗告権をも放棄するという方法を用いることができます。
遺産相続における相続分の放棄手続きと、相続分の譲渡
特定の相続人のみに自分の相続分を与えたい場合には、相続分の放棄手続きよりも相続分の譲渡手続きが有効かもしれません。譲渡であれば、相手を指定して自分の相続分を与えることができます。
相続分の放棄手続きは、特定はしないが他の相続人の相続分を増やしたい場合や、被相続人との関係が険悪であったり、疎遠であったりした場合などに用いられます。
実際の遺産相続の場面では、相続分の放棄手続きより、相続分の譲渡手続きの方が頻繁に用いられているようです。
遺産相続における相続放棄と相続分の放棄の違い
遺産相続における相続分の放棄手続きとよく間違われる相続放棄手続きですが、先に述べた通り、この2つは別物です。
おもに次の4つの面で違いがあります。
1.手続き期限の違い
遺産相続において相続放棄手続きをする場合は、遺産相続が始まり相続人となったことを知った時から3カ月以内に相続するか否かを決定し、家庭裁判所へ相続放棄申述の申し立てをしなければなりません。
対して遺産相続における相続分の放棄手続きには、意思決定するまでの期間の定めはありません。遺産相続が開始してから遺産分割協議が始まるまでの間に意思が固まっていれば良いということになります。
家庭裁判所への申し立ても、原則として必要ありません。
2.手続き方法の違い
遺産相続における相続放棄手続きの場合は、相続放棄申述書に加えて、自分や被相続人の戸籍謄本など、規定の書類を用意して申し立てを行います。
対して相続分の放棄手続きでは、原則として家庭裁判所での法的な手続きは必要ありません。大抵の場合、遺産分割協議の際の意思表明で完了します。
3.負債の相続の有無
遺産相続の際に相続放棄を選択する人の状況は、価値のある遺産よりも借金や債務など負担となる遺産の方が多いというケースがほとんどです。
相続放棄することで価値のある遺産も相続できませんが、借金や債務などの負の遺産もすべて相続しなくて良くなります。債務から完全に解放されるのが相続放棄と言えるでしょう。
対して遺産相続において相続分の放棄手続きをした場合は、相続人である事実は変わらないため債務の弁済責任が免除されません。あくまで相続人の間での合意なので、万が一債務が弁済されなければ、債権者側から請求を受けることになります。
遺産相続して被相続人の債務を肩代わりしたくないと思うならば、相続放棄手続きが有効でしょう。
4.他の相続人への影響
遺産相続における相続放棄の場合、次順位の相続人がいるならその人へ遺産相続権が移行します。相続分の放棄手続きでは、次順位の相続人への遺産相続権移行はありません。放棄手続きを行った相続人の相続分は、法定相続分の割合に従って他の相続人へ再分配されます。
まとめ
遺産相続における相続分の放棄手続きは、あまり行われることのない手続きと言えます。遺産すべてを放棄したいと考えており、自己のために遺産相続開始があったことを知った時から3カ月を経過していないなら、相続人としての立場・責任から完全に離れることのできる相続放棄手続きを行う方が良いかもしれません。
どちらの手続きをするのかについては、事前に弁護士などの専門家に相談すると良いでしょう。
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