相続人・遺留分 2018.03.15
子供3人の場合、遺留分はどうなる?
遺産相続で遺言書の通りに遺産を分けてしまうと、遺産をほんの少ししか受け取れない相続人、またはまったく遺産をもらえない相続人が出ることがあります。
一定の相続人には、遺産の中で自分が最低限もらえる取り分が保証されています。そのため自分がもらった遺産が遺留分未満なら、遺留分を上限に請求をすることができます。
ここでは、遺産相続で被相続人の子供3人が相続人になる場合の遺留分と、遺留分の放棄や請求に関する例を取り上げます。
注)本記事は平成30年3月時点での情報に基づいて作成されています。平成31年7月1日から遺留分減殺請求は遺留分侵害額請求に改正されています。改正によって侵害額は金銭でのみ精算されることになり、手続きがスムーズになりました。
子供3人の遺留分の割合
遺留分とは、被相続人の遺族の生活保障という趣旨で設けられている制度です。
例えば故人が「すべての遺産を愛人に遺贈する」といった遺言書を残して亡くなられた場合、本当に全部愛人に遺産わたるとなると、残された家族は生活の基盤を失ってしまう可能性があります。
そのため、生活や財産の形成において被相続人とより密接な関係にあると思われる配偶者・子供とその代襲相続人・父母などの直系尊属については遺留分権利者として、遺言書でも侵害できない保護された取り分である遺留分が認められているのです。
遺留分は当然に保護されるわけではなく、遺言書などで侵害された場合に遺留分権利者が自ら遺留分権を行使する、つまり「返して」と請求する必要があります。
このように遺留分権を行使することを遺留分侵害額請求(改正前は遺留分減殺請求)といい、口頭で相手に伝えることも可能ですが、通常はいつ請求したのかを明確にするために内容証明郵便によって通知することが一般的です。なぜなら、遺留分侵害額請求には次のような時効があるからです。
・遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年間
・相続開始の時から10年経過
上記いずれかにかかると時効によって遺留分侵害額請求ができなくなります。よって、内容証明郵便によっていつ請求したのかを明確に記録しておく必要があるのです。最初の請求によって侵害額を相手が支払ってくれればいいのですが、任意に応じてもらえない場合は裁判所を利用した調停などの手続きへと進む必要があります。
遺留分の割合は、相続人が直系尊属のみの場合は遺産全体の1/3、それ以外のケースでは遺産全体の1/2と定められています。
遺留分以外の遺産は、被相続人の意のままに処分できる遺産です。子供3人の遺留分の割合や取り分の量は、相続人の組み合わせによって次の2パターンに分けられます。
配偶者と子供3人が相続人の場合
この場合は、配偶者が遺産全体の1/4、子供3人が遺産全体の1/4の割合で遺留分を持ちます。
該当する相続人が複数人いる場合は頭数で等分した分がそれぞれの遺留分となるので、子供3人で1/4の遺留分を等分した場合、子供3人が個々に持つ遺留分は遺産全体の1/12ということになります。
子供3人のみが相続人の場合
被相続人の配偶者がおらず子供3人だけが相続人となる場合は、遺産全体の1/2が子供3人の遺留分となります。なので、子供3人が個々に持つ遺留分は遺産全体の1/6となります。
遺留分侵害と、遺留分減殺請求の例
ここで、配偶者と子供3人が遺留分を侵害された場合の例と、配偶者と子供3人が減殺請求できる遺産額について、例えを使ってご紹介しましょう。
「被相続人が死亡し、配偶者と長男・次男・三男の子供3人が相続人になりました。相続できる遺産の総額は5000万円です。
しかし被相続人は遺言によって、うち3000万円を愛人に遺贈するとしていました。さらに死亡の1年前、友人へ1000万円を贈与していたことも分かっています。」
1.遺留分の対象となる遺産額を計算する
まず、配偶者と子供3人の遺留分対象となる遺産総額を計算します。計算には、次の式を適用します。
「相続開始時の財産 + 贈与財産 = 遺留分対象の遺産総額」
この計算式で考えると、次の計算ができます。
5000万円 + 1000万円 = 6000万円
2.相続人ごとの遺留分侵害額を計算する
次に、配偶者と子供3人がどれくらい遺留分を侵害されているかを計算します。計算には、次の式を適用します。
「遺留分の額(遺留分対象遺産総額×遺留分割合)- 取得した遺産額(遺贈後財産×相続分)」
この計算によって、配偶者と子供3人の遺留分侵害額が次のように算出されます。
遺留分の割合 | 遺留分の額 | 取得した遺産額 | 遺留分の侵害額 | |
配偶者 | 1/4 | 1500万円 | 1000万円 | 500万円 |
長男 | 1/12 | 500万円 | 約333万円 | 約167万円 |
次男 | 1/12 | 500万円 | 約333万円 | 約167万円 |
三男 | 1/12 | 500万円 | 約333万円 | 約167万円 |
遺留分減殺請求は、遺贈と贈与があった場合は遺贈から先に請求します。この場合配偶者と子供3人は遺贈を受け取る愛人に対し、遺留分侵害額を請求できます。
【遺留分の対象となる財産】
遺留分の対象となる財産は、相続発生時に存在する被相続人名義の財産はもちろんのこと、次の財産についても対象となります。
・相続人に生前贈与した財産※特別受益に該当しない生前贈与については、原則として相続開始前1年以内のもの。それ以外は期限なし。
・相続開始前1年以内で、相続人以外に生前贈与した財産
・借金などのマイナスの財産
なお、遺留分減殺請求は遺留分侵害を知ったときから1年以内に行わないと時効になります。話し合いで決着がつけばいいのですが、通常は裁判など法的手続きによって決着がつくケースが多いです。
遺留分と取り戻すための裁判について知りたい方はこちらの記事をご参考ください。
遺留分を放棄することは可能?
遺留分の放棄は可能です。遺留分を放棄するタイミングが遺産相続開始後であれば、遺留分の請求をしないで放っておくだけで良いので簡単です。
しかし、被相続人の生前に遺留分放棄をしておきたい場合は、家庭裁判所へ「遺留分放棄許可」の申立てを行い、認められて初めて遺留分放棄ができます。
遺留分放棄が認められるには様々な条件があります。本当に本人の意思によるか、遺留分放棄に相当の理由があるか、生前贈与など遺留分放棄の代償があるか、などの条件を満たしていなければ認められない場合もあります。
遺留分は、それを放棄した相続人がいるとしても他の相続人の遺留分が増えることにはなりません。ですから、子供3人のうち誰かが遺留分放棄することで他の子供の取り分を増やしてあげたいと考えても、それは不可能です。
他の相続人に遺留分の放棄を強要する相続人が出ないよう、また被相続人が自由に処分できる遺産の割合を増やそうとして相続人へ遺留分放棄を強要することがないよう考慮されたためでもあります。
まとめ
子供3人の遺留分は、遺産全体の1/12になります。遺留分計算はややこしく、遺留分減殺請求も裁判手続きが必要になる場合が多いので、遺留分の取り戻しに成功したい場合は弁護士に依頼することをお勧めします。
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