土地・不動産 2019.02.01

不動産相続を拒否するにはどうしたらいい?

不動産と言えば、たいていはそれなりの価値があるものです。しかし相続では、長年放置された田舎の土地や空き家になっている実家、誰も手入れしていない畑や山林など、相続人にとって重荷にしかならないような不動産も出てきます。
相続人としては、なんとかして不動産の相続を拒否したい、という気持ちになるでしょう。そこで今回は、不動産の相続を拒否する方法をご紹介します。

記事ライター:棚田行政書士

不動産だけを拒否する「遺産放棄」

遺言書が遺されていない相続では、相続人による遺産分割協議によって遺産の分割方法を決めることになります。遺産放棄とは、この協議の際に「不動産はいらない」というような発言をして、特定の遺産の相続を拒否する意思を示すことです。

遺産放棄は相続人の間でのみ行われるもので、法律上の手続きではありません。そのため、遺産放棄をした人はその後も相続人であり続けます。

他の相続人と折り合いが付けば、自分が欲しい遺産を選んで相続できますし、被相続人の債務の弁済責任も引き続き留まるのです。

とても手軽な遺産放棄ですが「不動産は拒否するけれど、あの財産は欲しい」というような、身内の中で交わされる単なる相続財産のリクエストに過ぎません。厄介な問題から相続人を守るような効力は何もないのです。

ですから、被相続人が多額の債務を抱えており、債権者からの取り立てが始まっているような状況では、不動産の相続を拒否した相続人にも取り立てが及ぶ可能性があります。

 

共有不動産なら「持分放棄」が可能

持分放棄とは、不動産の共有者のひとりが自分の持分を放棄して、もはや自分のものではないとすることです。ただし、これは単に本人の思いの中での問題であり、公の手続きではありません。

不動産の登記上で持分放棄をして他の共有者に譲渡し、共有者でなくなるためには、持分放棄を登記原因とする「持分移転登記」を完了する必要があります。

持分放棄の意思を固めることだけは単独でできますが、持分放棄によって他の共有者の持分が増えることになるため、持分移転登記は不動産の共有者全員で行わなければなりません。よって、他の共有者に協力を拒否された場合には難しくなるでしょう。

 

すべての相続権を犠牲にする「相続放棄」

確実に不動産の相続を拒否できる究極の方法は、相続放棄をすることです。最初にご紹介した財産放棄とは、名前が少々似ているだけで、全くの別物になります。

相続放棄は、「単純承認」「限定承認」「相続放棄」と、3つある相続方法のひとつです。

「単純承認」は、債務なども含めた遺産すべてを無条件に相続することを言います。相続開始から3か月以上何の手続きもしないでいると、自動的に単純承認したものとされるので要注意です。

「限定承認」は、プラスの財産の範囲内に限定して債務を相続する、という条件付きのもので、遺産の全容が不明な場合に選択されます。ただし、限定承認は相続人全員で行う必要があり、誰かひとりでも拒否する相続人がいれば成立しません。

「相続放棄」とは、相続権を放棄し、一切の遺産を相続しないというものです。相続放棄をしたい場合は、家庭裁判所に相続放棄申述書を提出します。相続人が単独で決定し、他の相続人の同意を得ることなく手続き可能です。

相続放棄の手続きは法的効力を持つ公的なものですから、被相続人の債権者も異議を唱えることはできません。相続放棄をすると、その人は始めから相続人ではなかったことになるため、不動産の相続を拒否するまでもなく、遺産は何一つ相続しなくてよくなります。

しかし、代償として、遺産は1円たりとも相続できません。被相続人名義の実家に住んでいるとすれば実家を出ていかなければならず、被相続人名義の自動車を使っているなら、それも手放すことになります。

相続放棄は後から取り消すことができません。そして、メリットとデメリットがどちらも同じくらい大きいものです。時間をとってよく考え、後悔しない決断をしましょう。

 

相続放棄後の注意事項

相続放棄さえすれば、その瞬間から相続とは無関係になれるわけではありません。少なくとも、以下の2つの点に留意しておく必要があります。

1.次順位の相続人へ相続権が移る

相続放棄をした人がいると、相続権が次順位の相続人へ移る場合がありますので、相続放棄した場合には、次順位の相続人へ相続放棄したことを報告しましょう。

そうしないと、次順位の相続人は、知らないうちに相続の当事者になってしまう可能性があります。

2.不動産などの管理責任は当分残る

次順位の相続人がいても、その相続人が単純承認または限定承認をしてくれない限り、相続放棄した人に不動産の管理責任が残ったままです。

問題の不動産に今にも倒れそうな塀や、風が吹いたら飛んでいってしまいそうな瓦などがあるなら、相続放棄しているとしても対処しなければなりません。

 

まとめ

不動産の相続を拒否できるかどうかは、環境によって異なります。被相続人が多額の債務を負っていたのでなければ相続放棄はしない方がよいですが、どうしても不動産の相続を拒否したい場合には致し方ないでしょう。

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