遺産相続・遺産分割 2018.04.15

夫婦の一方が死亡した場合の遺産相続の注意点

夫婦のどちらか一方が亡くなった場合の遺産相続では、配偶者の相続税は大幅に軽減されます。
だからといって、安易に配偶者が高額な遺産を相続してしまうと、今度はその配偶者が亡くなり被相続人となった場合、二次相続することになる子どもの相続税の負担額が大きくなってしまう可能性があります。
今回は、そうならないためにも、夫婦の一方が死亡した場合の遺産相続の際に気を付けるべきことを、二次相続についての具体的な計算例も含めて解説します。

記事ライター:棚田行政書士

夫婦の遺産相続で適用される配偶者控除とは

夫婦の片方が亡くなった場合、配偶者は必ず相続人となります。

相続税の課税価格が1億6,000万円以下であれば、配偶者控除という配偶者の税額軽減が適用され、相続税がかかりません。

また、取得した遺産の課税価格が法定相続分以下の場合も無税となります。

つまり、配偶者は、相続した財産が1億6,000万円を超えた場合でも、法定相続分以下なら相続税は0円となるのです。

このように、被相続人の配偶者は相続税に関して非常に優遇されているため、相続税を支払うケースはそうそう無いのではないでしょうか。

ただし配偶者控除を受けるには、次のような条件があります。

・相続税の申告期限(10カ月)までに申告をする
・申告期限までに配偶者の相続分が確定している
・内縁関係ではなく戸籍上の配偶者である

上記の全てを満たしている場合のみ、 相続税の配偶者控除を受けることが可能です。

 

夫婦の遺産相続で注意するべき「二次相続」

被相続人の配偶者がこれほどまでにも配偶者控除による恩恵を受け、相続税がかからないケースも多いのであれば、節税という意味でも配偶者がすべての財産を相続した方が得なのではないか、と思いがちです。

しかし、夫婦の一方の遺産相続が始まったら、もう一方にすべての遺産を相続させて相続税を免れようという安易な受け止め方は出来ません。

なぜなら、「二次相続」があるからです。

夫婦の一方が亡くなり、被相続人の財産を配偶者と子どもが相続するのが一時相続、そのあと残された配偶者も亡くなった際に、子どもが相続するのが二次相続です。

例えば、同年代の夫婦がいたとします。

仮に先に夫が亡くなった場合、夫の遺産を相続する妻自身も、そう遠くない将来に自分自身の遺産相続が始まることが考えられます。

従って、夫婦間の遺産相続の際に、夫婦の一方の遺産のほとんどすべてを夫婦のもう一方が相続すると、相続税対策をする十分な月日もないまま、今度は残された夫や妻の遺産相続が始まってしまい、相続人となる子どもたちの税負担が増えることになります。

子どもには、配偶者控除のような大幅な税額の軽減がないからです。

ですから、夫婦の一方が亡くなった際は、二次相続のことまで考えた遺産分割をする必要があるのです。

 

二次相続を考慮した夫婦の遺産相続の具体例

では、二次相続を考慮して夫婦で遺産相続を行った場合と、夫婦間の税額特例だけを考えて遺産相続をした場合の、二次相続における差を見てみましょう。

今から説明する具体例では、次のような夫婦と子どもたちで構成される家庭を前提とします。

被相続人:夫

相続人:被相続人の妻、長男、長女

遺産相続対象の相続財産:土地(1億円)、建物(1,500万円)、金融資産5,000万円、死亡保険金3,000万円(受取人は妻)

分割例その1「夫婦間でのみ遺産相続をする」

妻の課税価格

妻の課税価格= 土地1億円(小規模宅地適用後2,000万円)+ 建物1,500万円 + 金融資産5,000万円 + 死亡保険金(3,000万円-500万円×3)=2,000万円 + 1,500万円 + 5,000万円 + 1,500万円 = 1億円

課税遺産総額

課税遺産総額 = 1億円 -(基礎控除3000万円+600万円×3)= 1億円 - 4800万円 = 5200万円

法定相続分に応じた法定相続人の取得金額

妻 2,600万円 長男 1,300万円 長女 1,300万円

算出税額

妻 2,600万円 ×15% - 50万円 = 340万円

長男・長女 1,300万円 × 15% - 50万円 = 145万円

合計 6,300万円

各相続人の相続税額の計算

6,300万円 × 1億円/1億円 -(配偶者税額控除)6,300万円 = 0円

分割例その2「二次相続に配慮し、子どもたちにも遺産を分ける」

土地と建物は妻が、金融資産は長男と長女で半分ずつ分割しています。

妻の課税価格

妻の課税価格 = 土地1億円(小規模宅地適用後2,000万円)+ 建物1,500万円 + 死亡退職金(3,000万円-500万円×3人)= 2,000万円 + 1,500万円 + 1,500万円 = 5,000万円

長男・長女の課税価格

長男・長女の課税価格 = それぞれ2,500万円

課税遺産総額

課税遺産総額 = 1億円-(基礎控除3,000万円+600万円×3人)= 1億円 - 4,800万円 = 5,200万円

法定相続分に応じた法定相続人の取得金額

妻 2,600万円 長男 1,300万円 長女 1,300万円

算出税額

妻 2,600万円 × 15% - 50万円 = 340万円

長男・長女 1,300万円 × 15% - 50万円  = 145万円

合計 6,300万円

・各相続人の納付税額の計算

妻 6,300万円 × 5,000万円/1億円 - (配偶者税額控除)315万円 = 0円

長男 6,300万円 × 2,500万円/1億円 = 157万5千円

長男 6,300万円 × 2,500万円/1億円 = 157万5千円

分割例その1および分割例その2の二年後におきた二次相続

先ほどの遺産相続では相続人だった妻が亡くなり、妻の遺産相続が始まります。この時の前提条件は次の通りです。

相続人:長男・長女

相続財産:土地1億円、建物1,400万円、金融資産8,000万円(分割例その1の場合)または3,000万円(分割例その2の場合)

分割方法:すべての遺産を均等に、1/2ずつ分ける。

 

ここで、先ほどの分割例に応じて金融資産の額が大きく変化しています。この前提条件で行われる二次相続で、分割例1と2ではどのような差が生まれたのでしょうか?

分割例その1の場合 分割例その2の場合
各相続人の課税価格 土地5,000万円+建物700万円+金融資産4,000万円=

9,700万円

土地5,000万円+建物700万円+金融資産1,500万円=

7,200万円

課税遺産総額 1億9,400万円-(基礎控除3,000万円×600万円×2人)=1億9,400万円-4,200万円=1億5,200万円 1億4,400万円-(基礎控除3,000万円×600万円×2人)

=1億4,400万円-4,200万円=1億200万円

法定相続分に応じた

各法定相続人の取得金額

7,600万円 5,100万円
各相続人の算出税額 7,600万円×0.3-700万円=1,580万円

(2人で3,160万円)

5,100万円×0.3-700万円=830万円

(2人で1,660万円)

各相続人の納付税額 1,580万円ずつ 830万円ずつ
一次相続での相続税額合計 無し 315万円
一次・二次相続を合計した

相続税額

3,160万円 1,975万円

分割例2では最初の遺産相続でも相続税を払っているものの、二次相続の際の相続税と合計すると、分割例1よりも1,000万円以上安い相続税になっています。

 

まとめ

夫婦の一方が亡くなった場合、相続人である配偶者は、要件を満たしていれば配偶者控除によりかなりの相続税が軽減されます。

しかし、この一次相続の時点で配偶者が多くの財産を相続してしまうと、二次相続の際にはこのような控除は無くなるので、子どもたちは多額の相続税を支払わなければいけない可能性が出てきます。

子どもたちの負担を減らすためにも、夫婦の一方の遺産相続の際には、二次相続まで考慮しましょう。

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