相続人・遺留分 2020.03.25
相続人なら絶対に知っておくべき遺留分権利者の権利
相続において遺言書が見つかった場合は、原則として遺言書の内容が優先されるため遺産分割協議を行う必要がなく、遺言書の内容通りに遺産分割が行われます。
ただし、一部の相続人には遺言に優先する取り分を有する遺留分権利者がおり、たとえ遺言書で指定されていてもそれよりも多く相続できる可能性があるのです。
そこで本記事では、遺留分権利者が持つ権利の意味やポイントについてわかりやすく解説します。
遺留分とはどんな権利?
遺留分権利者について解説する前に、遺留分について簡単に説明したいと思います。
例えば、遺言で「すべての遺産を愛人に相続させる」という内容のものが発見されたとします。
遺言書は遺産分割協議よりも優先されるので、原則として遺産はすべて愛人のものになってしまいます。
ただ、これでは残された家族があまりにも不憫ですよね。
仮に相続人が本妻1人だとした場合、遺産をすべて愛人に持っていかれてしまうと、最悪の場合自宅を追い出されてしまうこともあり得ます。
そこで民法では極端な遺言が執行された場合でも、残された家族の生活が最低限保証されるよう「遺留分」という権利をつくりました。
遺留分とは簡単にいうと遺言よりも優先する取り分で、相続人に応じて次のような割合が認められています。
【法定相続分に対しての割合】
・配偶者のみ:2分の1
・子のみ:2分の1
・直系尊属のみ:3分の1
・配偶者と子:2分の1
・配偶者と直系尊属:2分の1
よって、上記のケースで本妻は遺言が執行されたとしても、遺留分権利者としての権利を行使することで最低でも全財産の1/2は相続することができるのです。
このように遺留分権利者とは、遺留分を有する相続人のことをいいます。
ただし、遺留分はあくまで遺留分権という権利で、権利を行使することで認められる権利なので、遺言が執行される時に遺留分権利者自らが遺留分権を行使して、遺留分を取り戻すというアクションを起こす必要がある点に注意が必要です。
このように遺留分権利者が権利を行使して遺産を取り戻す手続のことを、遺留分侵害額請求といいます。
遺留分権利者に関係する法改正
遺留分権利者は遺留分によって最低限の遺産の相続を保証されているわけですが、あくまで権利を行使する必要があります。
そんな中、遺留分侵害額請求というのは2019年7月から法改正によって始まった制度で、それまでは遺留分減殺請求という制度でした。
実はこの2つかなり意味が違ってくるので、遺留分権利者の方は間違えないよう注意が必要です。
遺留分減殺請求との違い
法改正される前に遺留分権利者が遺留分減殺請求をした場合、相続財産のそれぞれについて遺留分を取り戻すことになります。
例えば、預金4,000万円と評価額6,000万円の土地が相続財産だった場合、上記の事例で仮定すると遺留分権利者である本妻が取得できる割合は次のようになります。
預金:2,000万円
土地:3,000万円
一見するとなんの問題もなさそうに感じるかもしれませんが、土地を半分に分けるという作業は簡単ではありません。場合によっては半分にわけることで、価値が著しく低下してしまうこともあるのです。
2人で共有するという選択肢もないわけではありませんが、将来的なことを考えるとあまりにもリスクが大きすぎます。
そこでこういった不都合を解消するために、遺留分権利者に与えられる権利が遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権に法改正されたのです。
遺留分侵害額請求はキャッシュで精算
法改正によって遺留分権利者が遺留分侵害額請求をすると、キャッシュでのみ精算することになりました。
つまり上記の事例であれば、愛人は本妻に対して5,000万円をキャッシュで渡すことで遺留分を精算するという制度になったのです。
これにより遺留分権利者が実質的に遺留分の返還を受けられなかったような事例がなくなり、遺留分権利者の遺留分が確実に保護されるようになりました。
遺留分権利者が注意すべきこと
遺留分権利者は最低限の取り分が保証されているので、極端な遺言書が発見されたとしても全く遺産を相続できずに路頭に迷う心配がありません。
ただし、あくまで権利を行使しなければ遺留分は返還されない点に注意が必要です。
遺留分権利者が権利を行使しないまま1年経過してしまうと、時効によって権利が消滅してしまうので、遺留分権利者はできるだけ早く遺留分侵害額請求をした方がよいでしょう。
遺留分侵害額請求は口頭でも可能ですが、時効の問題があるので記録に残るよう内容証明郵便で相手に送ることをおすすめします。
まとめ
遺留分権利者は遺留分という非常に強い権利をもっているものの、何もしなければ遺留分を侵害されたまま権利を失ってしまうこともあるので注意が必要です。
相続が開始して自分の取り分があまりにも少ないと感じたら、自分の遺留分を確認したうえで弁護士に相談することをおすすめします。
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