遺言 2018.01.15

遺言で赤の他人に財産を譲ることはできる?

相続では、通常、亡くなった人の親族が財産を引き継ぐことになります。けれど、親族と交流が全くない人などは、自分の財産はお世話になった人に譲りたいと思うこともあるでしょう。遺言を利用すれば、自分の財産を好きなように処分することができます。ここでは、遺言で赤の他人に財産を譲ることができるかどうかについて説明します。

記事ライター:ゆらこ行政書士

遺言の効力とは?

相続では遺言があれば遺言が優先

相続には、民法で定められた相続人(法定相続人)が民法で定められた割合(法定相続分)で財産を相続する「法定相続」と、遺言に従って行われる「遺言相続」の2つがあります。法定相続と遺言相続では、遺言相続の方が優先されます。亡くなった人が遺言を残している場合には、本人の意思を尊重して、遺言通りの相続を行うことになります。

対して、遺言書がない相続の場合は法定相続人全員の話し合いである遺産分割協議によって取り分を決めることになります。この際、一般的には民法で決められている法定相続分を基礎として話し合いを進めるのが一般的です。

例えば、父、母、子の3人家族で父が死亡して相続が発生し遺言書がなかった場合、法定相続人と法定相続分は次の通りです。

・配偶者相続人:母1/2
・血族相続人:子1/2

仮に子がいない場合は第二順位の直系尊属である祖父母が相続人となり、法定相続分は次の通りです。

・配偶者相続人:母2/3
・血族相続人:祖父母1/3

さらに祖父母もいない場合は、兄弟姉妹が法定相続人となります。仮に兄がいた場合、次の通りです。

・配偶者相続人:母3/4
・血族相続人:兄弟姉妹1/4

また、子や兄弟姉妹が死亡していたとしても、その子供である孫や甥姪がいる場合は相続人としての地位を代襲して相続人となります。

これを「代襲相続」といい、子や兄弟姉妹の相続分と同じ相続分です。例えば、相続人で子2人のうち1人がすでに死亡していて、その子である孫が2人いる場合、相続分はつぎのようになります。

子:1/2
孫1:1/4
孫2:1/4

孫が死亡している場合でもひ孫、夜叉孫といった形で何代にもわたって代襲相続(再代襲)しますが、兄弟姉妹の場合は甥姪が死亡していれば再代襲は発生しません。代襲相続は遺産分割において忘れがちなので十分注意しましょう。

遺言を書けば赤の他人に財産を譲ることも可能

遺言を書けば、自分の死後の財産の処分方法について、自由に指定することができます。遺言がない場合には、財産は法定相続人である親族が引き継ぐことになりますが、たとえ親族がいても、遺言によれば、赤の他人に財産を引き継がせることが可能になります。

他人とはすなわち法定相続人以外の第三者のことで、次のようなケースが考えられます。

・法定相続人ではない親族
・内縁関係の相手方
・友人
・知り合いの人

遺言書を活用すれば、これら相続人以外の人や法人へ遺産を譲ることも可能です。

 

遺言で赤の他人に財産を譲る場合の注意点

・相続人の中には遺留分を持っている人がいる

遺言で、親族ではなく赤の他人に財産を譲りたいと考える人もいると思います。遺言を書いて赤の他人に財産を譲りたい場合に最も気を付けなければならないのは、相続人の遺留分を侵害していないかという点です。

遺留分とは、法定相続人のうち、兄弟姉妹(及びその代襲相続人)に対して認められている最低限の相続割合のことです。遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人の場合には相続財産の3分の1、それ以外の場合には相続財産の2分の1となっています。

遺留分のある相続人(遺留分権利者)は、遺言により自らの遺留分が侵害された場合には、遺留分侵害額請求を行うことにより、取り戻しができます。

例えば、法定相続人が配偶者1人子1人、遺産1億円だった場合において「すべての遺産を子に遺贈する」という内容の遺言書が見つかって、納得のいかない配偶者が遺留分侵害額請求をすると、配偶者は法定相続分2分の1の2分の1である4分の1の遺留分、つまり2,500万円を取り戻すことができるのです。

この際、子は金銭でのみ精算することになります。

トラブルなくスムーズに財産の移転が行われるよう、遺言を書くときには遺留分権利者の遺留分を確保しておくべきでしょう。金銭が不足する場合は、事前に生命保険の死亡保険金などを活用して対策をとっておくことが重要です。金銭さえ準備できれば、遺留分侵害額請求はスムーズに行えます。

・赤の他人には「遺贈する」遺言を書く

遺言で特定の人に財産を譲る場合、「遺贈する」という表現と「相続させる」という表現があります。遺言で赤の他人に財産を譲る場合には、相続ではなく遺贈ですから、「遺贈する」と書くべきで、「相続させる」と書くのは間違いです。

なお、最高裁の判例では、「遺言の解釈にあたっては、遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきである」とされています。赤の他人に「相続させる」旨の遺言を書いても、通常は「遺贈する」と読み替えることになりますが、遺言を書くときにはできるだけ正確な表現をするよう心がけた方がよいでしょう。

 

相続人が赤の他人に全財産を譲る遺言を見つけたらどうする?

・遺言を隠すと相続権がなくなってしまう

家族が亡くなって自宅などを探していたら、遺言が見つかることがあります。自分が相続人なのに、見つかった遺言では赤の他人に全財産を譲る旨が書いてあったら、納得がいかないこともあると思います。

たとえ見つかった遺言が自分にとって不利益な内容であったとしても、遺言を隠すようなことはするべきではありません。遺言を隠すと民法に定められている相続人の欠格事由に該当し、相続する資格自体がなくなってしまいます。

・自筆証書遺言は検認手続きを行う

見つかった遺言が自筆証書遺言の場合には、家庭裁判所で検認を受ける必要があります。遺言を発見しても、勝手に開封することはできません。遺言を勝手に開封すると、5万円以下の過料(罰金)に処せられる旨の規定もあります。遺言の検認を申し立てると、遺言は家庭裁判所で相続人の立ち会いのもと開封されることになります。

実際のところ、遺言を発見したらつい開封してしまうこともあると思います。遺言を開封しても必ず過料に処せられるわけではありません。また、開封した遺言も無効になるわけではないので、開封後でも速やかに検認申立てをするようにしましょう。

・遺留分があれば遺留分減殺請求ができる

自分が相続人である場合、亡くなった人の遺言で赤の他人に全財産を遺贈する旨が書かれていたとしても、全く相続ができないわけではありません。相続人である配偶者、子(またはその代襲相続人)、直系尊属には遺留分があります。遺留分減殺請求をすれば、遺留分の限度において、受遺者(遺贈を受けた人)から財産を取り戻すことができます。

遺留分減殺請求は、相続開始と遺留分侵害の事実を知った時から1年以内にする必要があります。ただし、相続開始から10年が経過してしまえば、たとえ遺留分の侵害を知らなくても、遺留分減殺請求はできなくなってしまいますので注意しましょう。

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