遺言 2017.10.31
遺言と異なる遺産分割協議は有効?
相続においては、亡くなった人(被相続人)の意思が最優先で尊重されます。そのため、被相続人が遺言を残している場合には、遺言に従って相続が行われることになります。ところで、もし遺言の内容に相続人全員が反対であれば、遺言は無視してもよいのでしょうか?ここでは、遺言がある場合に、遺言と異なる遺産分割ができるかどうかについて考えてみます。
遺言者の意思は常に優先させるべき?
遺言があれば遺産分割協議は不要
遺言のない通常の相続では、被相続人が持っていた財産は、死亡と同時に相続人全員が共有することになります。さらに、共有のままでは都合が悪いので、相続人全員で遺産分割協議を行って、相続財産を分ける必要があります。
被相続人が遺言を残している場合には、相続財産は遺言に従って分けることになります。民法上、遺言者は遺言で遺産全部の処分方法を決めることができるとされていますから、相続人は遺言の内容に拘束されることになります。つまり、遺言がある場合には、基本的に遺産分割協議を行って相続財産を分ける必要はないということです。
相続人全員が遺言の内容に反対することもある
被相続人が遺言で遺産の分け方を指定しているけれど、遺言通りに分けることを相続人の誰も望まないというケースがあります。遺言の内容が相続人全員の希望と明らかに食い違うような場合には、敢えて遺言者の意思を優先するメリットはないといっていいでしょう。仮に遺言を優先させたとしても、相続人同士で贈与や交換を行えば、結局は遺言者の意思と違う結果になってしまうからです。
実際には遺言と異なる遺産分割はよく行われている
遺言がある場合には遺言に従って相続が行われるのが原則ですが、相続人全員が合意していれば、遺言と異なる遺産分割も可能であると考えられています。遺言と異なる遺産分割が行われるのは珍しいことではなく、実務では頻繁に行われています。ただし、遺言と異なる遺産分割を行っても、有効にならないケースもありますから注意が必要です。
遺言と異なる遺産分割を行うための要件
遺言と異なる遺産分割が有効になるのは、次のような要件を満たしているケースになります。
(1) 被相続人が遺言と異なる遺産分割を禁止していないこと
被相続人が遺言により遺産分割の方法を指定しているだけでなく、指定した以外の方法で分割することを禁止する意思を明確にしている場合には、遺産分割協議による分割はできないものと考えられています。
(2) 相続人全員が遺言の内容を知ったうえで、遺言と異なる分割を行うことについて同意していること
遺言の内容を知らない相続人がいる場合には、遺言の内容を知らせる必要があります。自筆証書遺言については、検認を受けておく必要があります。
(3) 相続人以外が受遺者である場合、受遺者の同意もあること
受遺者の同意を得ていない遺産分割協議は無効になります。遺産分割協議による分割を行う場合、相続人以外の受遺者には遺贈を放棄してもらわざるを得ません。遺言と異なる遺産分割は受遺者の利益に反することになりますから、受遺者の同意が不可欠となります。
(4) 遺言執行者がいる場合、遺言執行者の同意があること
遺言で遺言執行者が指定されている場合には、遺言執行者は遺言執行に必要な一切の行為をする権利義務を持つことになります。相続人全員が遺言と異なる遺産分割を求めたとしても、遺言執行者は本来、遺言の内容のもとづいた執行ができます。ただし、遺言執行者は相続人全員の合意のもとに行われた遺産分割に同意を与えることはできると考えられているため、遺言執行者がいる場合には同意を得ておく必要があります。
遺言と異なる遺産分割を希望する場合の注意点
遺言と異なる遺産分割は可能とされていますが、遺産分割協議が有効かどうかの判断が難しいケースもあります。遺言と異なる遺産分割については明確な判例があるわけではなく、理論構成がうまくできなければ無効とされてしまう可能性があります。少なくとも上に書いた要件は満たす必要がありますが、他に問題点が出てくることも考えられます。
遺言と異なる遺産分割ができないとなると、遺言に従って相続した後で贈与を行うことで解決しようと考えるかもしれません。しかし、そうなると贈与税が発生したり、登記費用が余計にかかったりしてしまいます。
遺言と異なる遺産分割を希望する場合には、当事者だけで判断せず、事前に弁護士等の専門家に相談してアドバイスを受けるのがおすすめです。
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